ビジネスロー・ダイアリー

中年弁護士の独り言兼備忘録

未知の世界の第一歩 - クロスボーダーM&Aの契約実務の雑感

今日は本の感想をつらつらと書いていきたい。今日の本の著者が所属する東京国際法律事務所(TKI)は各種法律雑誌に取り上げられており、実際に各社が行っている統計やランキングでも顔を出している。私の四大の友人にも、同事務所への転籍を考えている者もいるらしいとのことだった。そんなこんなで興味を持っていたところ、たまたまアウトバウンド案件に私自身が関わることがあったので、この本を読んでみた。

M&Aの契約に関連する本を多数出ており、この業界のバイブルとされている長島大野常松法律事務所(NOT)の「M&Aの契約実務」、また森・濱田松本法律事務所(MHM)の「M&A契約――モデル条項と解説」あたりが有名であるが、これらの書籍は基本的には国内のM&Aを想定して作成されたものである。本書の一番の特徴は、その名のとおり、クロスボーダーのM&A取引を想定して作成しているところであろう。

私は恥ずかしながらほぼ初めての本格的なクロスボーダーM&Aであり、びくびくしていたのであるが、本書を読み、クロスボーダーM&Aでも国内M&Aでも基本的な考え方は通底していることをよく理解できた。「国際的な業務をしたいのであれば、まずは国内業務で地力をつけるべし」と十数年前に言われた言葉は実に的を得ていたのであろう。さはさりながら、これを英語の契約書でやり取りし、英語で交渉するとなると、そこには大きなハードルがあることが容易に想像がつく。日本語でこのサービスを提供して、かつフィーも外資系法律事務所よりも安いのであれば、それは日本企業はTKIを使いたいだろうな、と思う。

上記のNOTとMHMの契約実務本との違いでいうと、表明保証保険の説明について最新の実務も踏まえ丁寧に解説しているところだろう。国内のディールでも、特にファンドが関係するディールでは、表明保証保険を利用することが増えているとはいえ、実務に根付いているかと言えば、そうではないのが実情であろう。そのため、この点について実務的な説明がなされている本は少なかった。しかし、クロスボーダーディールでは表明保証保険が根付いており、経験豊富なTKIだからこそ書くことができた内容となっている。私は実務で表明保証保険を使ったことがまだないが、表明保証保険で何をカバーできて、何をカバーできないか、よく理解することができた。

表明保証保険はその言葉の響きから、表明保証で「カバーしていない点」をカバーするようなイメージを持っていたが、そのイメージは間違っていた。表明保証保険は、基本的には表明保証違反が生じたときの補償義務に関する売主の無資力のリスクをカバーするものであるので、売主が表明保証をしていない点を保険会社が別途カバーする訳ではない。あくまで表明保証で「カバーしている点」に問題があったときに、売主ではなく、保証会社が一定の限度で支払いを担保するものなのである。さらに、表明保証保険のカバー範囲は表明保証のカバー範囲よりも狭くなることがあるようなので(例えば、環境に関する表明保証は通常カバーされないらしい)、このことからしても「表明保証があるから安心」とは言いづらいもののようだ。表明保証保険という言葉から直感的に連想されるイメージと実際の表明保証保険の内容は異なっているので、依頼者に説明するときは丁寧な説明が必要となるだろう。

さらに、表明保証保険とエスクローが両方用いられる場合における両者の使い分けについても本書では触れられており、私はこのような知見はなかったため、大変参考になった。

M&Aの契約実務を踏まえて表明保証保険を説明した文献はまだまだ少ないため、この点だけでも本書を購入する十分な理由になろう。

TKIは東京発のグローバルファームという理念を掲げており、これまでの日系法律事務所が開拓してこなかった分野を開拓しようとしている。この分野はそのネットワークの強さから外資系法律事務所が牛耳っていた。ネットワークの観点からいうとTKIは劣勢と言わざるを得ないが、クオリティや価格の面で十分勝負していけると踏んでいるのだろう。TKIの今後の動きに要注目である。

なお、このエントリーで紹介したNOTの「M&Aの契約実務」はこちら。これは業界ではバイブルと言われている本で、発行当初は多くの事務所がこの本を熟読して、真似したという嘘か誠か分からない話を聞いたことがある。

森・濱田松本法律事務所の「M&A契約――モデル条項と解説」はこちら。こちらもこの業界人必携の書。NOTの書籍に次ぐ定評のあるM&A実務本で、近年発行されたこともあり、NOTの本にはない論点も載っている。

司法修習生は何を勉強すべき?各論編(2022年版):英語の話す聞くの勉強法


今更ながら書きかけの英語のエントリーについて書いてみたい。一応、以下の一連のエントリーの一部という立ち位置で書こうと思うが、これだけ単体で読んでもらっても構わない。

 

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さて、留学志望の方はTOEFLを勉強し始めるのがいいのではないか?というエントリーを以前書いたが、断言するがTOEFL105点程度をとっても英語はビックリするほど話せないし、聞けない。なお、ざっくりとしたTOEFLの点数の難易度は以下のとおり:

・TOEFL105点程度:純ジャパがある程度勉強をしてとれるレベル。他方、帰国子女であればほぼノー勉で受験してとる点数。

・TOEFL110点程度:普通の純ジャパの壁。純ジャパでこの程度の点数がとれれば御の字。

・TOEFL115点程度:帰国子女がある程度勉強すればとれるレベル。たまーに純ジャパでこの点数をとる人がいるが、元々英語が好きで学生時代から継続して英語を勉強していたという例外事例。

さて、修習生には留学時に(これはかなり難しいが)できればTOEFL115点、頑張って110点程度を目指して欲しくて前回までの記事を書いた。今日は留学にはあまり興味ない、又は勉強っぽい勉強はしたくない、だけど英語を話せるようになりたいという方に向けたエントリーだ。

英語の聞く力を伸ばしたいのであればモゴバスと海外ドラマがお勧め

まず英語の聞く力。これが英語を話すうえで一番大事な能力だ。なぜならば、聞けなければ、コミュニケーションがとれないからだ。しかし、日本人にはこのハードルが非常に高い。もっとも習得に時間がかかると言っていい。

単語は知っている、発音も分かっているのに英語が聞き取れない理由は、音声変化のルール(というと大げさだが、要するに省エネ発音)が分かっていないことと、スピードに慣れていないことがあげられると思う。それぞれの対策について書いていきたい。

まずは前段の音声変化について。我々日本人もそうだが、慣れてくると丁寧に発音をすることはない。元気のいいラーメン屋に行ってみて欲しい。彼らは決して「いらっしゃいませ」とは発音していない。むしろ「しゃっいっせー」くらいの勢いで発音している。これと同じことが、当然ながら英語でも起こっている。これを学ぶのに有効な教材がモゴモゴバスターだ。

www.mogomogobuster.com

私もこの教材を取り組む前はあまりよく分かっていなかったのだが、英語には様々な音声変化があり、例えば、音がつながる(リエゾン/リンキング)、音が弱まる(リダクション)、音が脱落する(エリジオン)が存在する。もしかしたら、このどれか(特にリンキング)は聞いたことがあるかもしれないが、これを体系的に学ぶことができる教材は日本ではモゴモゴバスター以外にないように思う。

私の実感であるが、モゴモゴバスターを1周した時点でリスニング能力が数%、3周した時点で15%くらい上がった気がする。私にとってはこれをすればすぐに魔法のように英語が聞き取れるようになるというものではなかった。しかし、これは私は音楽的なバックグラウンドが全くなく、細かい音の違いが聞き取れないからであろう。このような人は、ルールを知っただけでは不十分で、音の違いが分かるように反復練習が必要なのだ。今は米国英語であればニュースを大分楽に聞き取れるようになったが、私のリスニング能力の基礎には確実にモゴモゴバスターがある。なお、私と異なり音楽的バックグラウンドがある人は、音の違いにセンシティブなので、音声変化のルールを学べばすぐに英語が聞けるようになるのではと思う。是非利用してみて、感想を聞かせて欲しい。

モゴモゴバスターで音声変化のルールを学んだのであれば、後は実践あるのみだ。昨今はYoutubeで無限の英語コンテンツに無料で触れらるようになった。本当にいい時代だ。しかし、私の実感としては英語を聞き流すだけではリスニング能力は発達しない。聞いて、答え合わせをして、音声を学んでいき、それで初めてリスニング能力が向上すると思っている。したがって、リスニング能力をあげたいのであれば答え合わせができる英語コンテンツに多く触れるべきだろう。

そこで、お勧めしたいのが動画ストリーミングサイト+スクリプトだ。Netflixを例にとって説明しよう。Netflixでは字幕表示を選べるようになっているので、字幕を英語表示に設定する。まずは字幕を見ずにNetflixを視聴し、分からないところがあれば止めて、少し巻き戻して英語字幕を聞きながら聞き直す。基本的にはこれを繰り返すのであるが、英語字幕が早すぎて分からない、又はいちいち動画を止めるとあまりに細切れになってしまい内容が頭に入らないことがある。その場合は、「ドラマ名 Script」で検索すれば、有名ドラマであれば大体スクリプトがヒットする。スクリプトがあればドラマの内容を追うのが一気に容易になるだろう。

選ぶドラマは自分の興味あるものでよいが、初心者には「フレンズ」が丁度いいと聞いた。少し自信がある方にはリーガルドラマの名作「SUITS」を観てみてもいいかもしれない。とってもレベルが高く、自信を無くすこと間違いなしであるが。。なお、私は最初にBBCの「Sherock」を選んで爆死した。

英語の話す力を伸ばしたいのであればオンライン英会話がお勧め

さて、次は英語の話す能力を伸ばす方法であるが、これはもう実際に話すしかないだろう。今は格安で学べるオンライン英会話がたくさんあるので、そのどれかを利用すればよい。オンライン英会話を選ぶときのポイントは以下のとおりかと思っている:

・ネイティブと話したいか

・予約制がいいか、飛び込み制がいいか

・TOEFL対策の教材があるか

・1週間にどの程度レッスンを受けたいか

・ご予算

例えば、ネイティブと話したく、TOEFL対策もしたい、生活も規則的でないので予約すれば確実に受講可能、予算も潤沢にあるぞ、という方はDMM英会話(ネイティブと話せるオプション付きで月額16,590円(1日1回プランの場合))を選べばいいし、とにかく安く、他方で話す機会はとにかく確保したい、しかし生活が不規則でいつ受講できるかは日によって変わる、という方はNative Campを選べばいいと思う(ネイティブと話すオプションを付けなければ月額6,480円で授業受け放題。)。この辺りは各社を比較したより詳しいサイトがあるので、詳細は説明はそのサイトに委ねたい。

ここでは私が初期の頃していたミスについて少し書いてみたい。私は初期の頃は受講の仕方が分からず、なんとなく教材を消化することに終始してしまっていた。断言していいが、この方法で謎に自己紹介は上達するが、話す力は身につかない。なぜなら、教材自体が自分で考えて話す(自分の意見をいう)ことに重きをおいたものが少なく、また、せっかく自分の意見をいうターンになっても、自分が1つ発言すると講師がそれに対して3つ4つ発言するので、結局は講師の意見を聞くことに終始してしまうことが多いからだ。

これを回避するためには、ある程度予習して、話したいことを決めておくしかない。授業前に教材を少しだけ見て、自分の回答・意見を事前に準備しておけば、授業中でも自分の話す時間が長くなり、英語力向上に繋がる。自分が会話の主導権を握ることができるので、(講師の話を聞くのではなく)講師に自分の話を聞いてもらうことができるのだ。

私もまだまだ発展途上

さて、偉そうに英語の勉強方法について書いたが、私もまだまだ発展途上(であると思いたい)で、非英語圏の方であれば意思疎通を図れるが、英語圏の方が本気で話したときはお手上げという程度の英語力だ。おっさんであるが、所詮語学は壮大な慣れという、誰かの名言を心に留め、これからも日々英語学習に励んでいきたい。

お詫びとしての「200円」じゃ気が済まない?-KDDIの通信障害に基づく補償について

仕事にかまけて、久しぶりの投稿になってしまった。高頻度でブログを投稿している人を尊敬しつつ、話題となっているKDDIの返金対応が公表(以下参照)されたため、今日はこの点について契約約款を確認しながら検討していきたい。なお、いつものことであるが、これは筆者の見解であり、筆者の所属する団体等の見解ではない。また、これは個別の法的助言ではなく、あくまで一般論である。

ご返金内容[1] 契約約款に基づくご返金

■対象のお客さま: 271万人 (KDDI) 7万人 (沖縄セルラー)

通信障害期間中 (注1)、24時間以上連続して全ての通信サービスをご利用いただけなかったお客さま (音声通信サービスのみをご契約のお客さま)

■ご対応内容: ご契約の料金プランの基本使用料等の2日分相当額をご請求額から減算

[2] 通信障害のお詫びとしてご返金

■対象のお客さま: 3,589万人 (KDDI) 66万人 (沖縄セルラー)

通信障害期間中 (注1) にスマートフォン、携帯電話およびホームプラス電話をご契約いただいていた全てのお客さま

■ご対応内容: ご請求額から200円 (税抜) の減算

  • 0は基本使用料が0円であることから、返金に替えてデータトッピング (1GB/3日間) を進呈

参考:https://www.kddi.com/?_ga=2.200461671.816703372.1659859202-1423574391.1659859202

なお、私の認識では、今回の通信障害は、VoLTE交換機や加入者管理データベース(HSS)が原因で生じたものであったため、多くのユーザーは音声通信ができなくなったものの、データ通信の利用はできたユーザーは一定数いたと理解している。今回はこの認識が正しいものとして分析していきたい(今回は不正確な事実認識があるかもしれない。もし間違っていたらコメントして欲しい。いずれにせよ、この分析は私の認識が正しいことを前提に進めたい)。

契約約款の内容

KDDIは各プランの契約約款を公表しているが、現在最も加入者が多いと思われる5Gの契約約款を見ていきたい。この約款には損害賠償については以下のような規定をおいている(抜粋。下線は筆者にて追加。)。

(責任の制限)

第 75 条 当社は、au(5G)通信サービスを提供すべき場合において、当社の責めに帰す べき理由によりその提供をしなかったとき[…]は、そのau(5G)通信サービスが 全く利用できない状態(その契約に係る電気通信設備によるすべての通信に著しい支障が 生じ、全く利用できない状態と同程度の状態となる場合を含みます。以下この条において 同じとします。)にあることを当社が認知した時刻から起算して、24 時間以上その状態が連 続したときに限り、その契約者の損害を賠償します。

2 前項の場合において、当社は、au(5G)通信サービスが全く利用できない状態にあ ることを当社が認知した時刻以後のその状態が連続した時間(24 時間の倍数である部分に 限ります。)について、24 時間ごとに日数を計算し、その日数に対応するそのau(5G) 通信サービスに係る次の料金の合計額を発生した損害とみなし、その額に限って賠償しま す。

(1) 料金表第1表第1(基本使用料等)に規定する料金[…]

(2) 料金表第1表第2(通話料)に規定する料金[…]

(3) 料金表第1表第3(データ通信料)に規定する料金(au(5G)[…]

(4) 料金表第1表第1(基本使用料等)に規定する海外ローミング機能に係る料金[…]

3 前項の場合において、日数に対応する料金額の算定にあたっては、料金表通則の規定に 準じて取り扱います。

4 […]

5 当社は、au(5G)通信サービスを提供すべき場合において、当社の故意又は重大な 過失によりその提供をしなかったときは、前4項の規定は適用しません

参考:https://www.kddi.com/extlib/files/corporate/kddi/kokai/keiyaku_yakkan/pdf/honbun_kddi_5G.pdf

通信障害が生じた場合にはKDDIに大きな損害が生じる可能性があるため、KDDIは上記のとおり、責任制限の規定をおいているのであろう。長い条文であるが、まとめると、以下のようになると考えられる。

①KDDIの「責めに帰すべき事由」があり、

②通信サービスが「全く利用できない状態」であり、かつ

③②が24時間以上連続した場合、

⇒KDDIは④「全く利用できない状態」の日数分の基本使用料等、通話料、データ通信料、海外ローミング機能に係る料金を支払う。

しかし、⑤KDDIが「故意または重大な過失」があるあるときは①から④の制限は課されない。

お詫びとしての200円の返金について

まずは、KDDIの「お詫び」がどこから来たのか、なぜ200円なのか不思議に思った方もいるだろう(かくいう私もそうだ)。これは、冒頭に記載した私の認識にかかわる。すなわち、本件の通信障害の期間中、データ通信の利用はできたユーザーが一定数いるということだ。このようなユーザーは、上記②の通信サービスが「全く利用できない状態」ではないので、契約約款上は補償の対象にならないこれを突き詰めるとこのようなユーザーには補償する必要がないことになる。しかし、流石に反発が大きいと予想されたため(私も怒る)、お詫びとしての200円を支払うことにしたのだろう。

では、200円はどこから来たのか?どうやらKDDIの会見内容によると、この金額は約款の規定を参考にしており、基本使用料の平均日割りが52円、障害があった3日間の総計で156円、これに44円の「お詫び」を上乗せした200円としたらしい。

KDDIはこの44円という数字はお詫びという説明をしているが、「通話料」分の補償の計算ができなかったという側面もあるように思う。すなわち、約款の規定を参考にするのであれば、データ通信だけが使えない場合、基本使用料等、通話料、及び海外ローミング機能に係る料金を補償の対象にするのが自然であろう。海外ローミング機能に係る料金は大勢に影響がないことから捨象しても問題なさそうであるが、通話料については補償すべきである。しかし、対象となる3,655万人の3日間分の平均通話料を計算するのは容易なことではなかったため、それを「お詫び」という形で補償したのではないか、という邪推もできる。

いずれにせよ、契約約款上は補償する必要がない金額を補償しているので、KDDIとしては誠実に対応しているということなのであり、金額感としても実は妥当なもののように思う。

契約約款に基づく返金について

上記①乃至③を満たしているユーザーが271万人いたということであろう。

少し気になるのは開示資料からすると、補償対象が「基本使用料等」としか記載されていないことだ。契約約款では、この他にも「通話料」、「データ通信料」及び「海外ローミング機能に係る料金」を支払うことになっている。これを対象にないということであれば、契約約款と異なる取扱いをしていることになる。KDDIがここで3日分の「通話料」、「データ通信料」及び「海外ローミング機能に係る料金」を出し渋ることは考え難く、これは開示資料のミスだということなのだろう(そう信じたい)。もしかしたら、開示資料でいう「基本使用料等」とは、契約約款の「基本使用料等」とは別の定義であり、「通話料」、「データ通信料」及び「海外ローミング機能に係る料金」を含んだ意味なのかもしれない。

なお、開示資料を見ると、この対象となるユーザーは200円以上の高額の金額が支払われそうという印象を受けると思う。しかし、会見によると、基本使用料の平均日割りが52円とのことなので、これに「通話料」、「データ通信料」及び「海外ローミング機能に係る料金」を加えたとしても大した金額ではないだろう。もしかしたら騙されたと思うユーザーがいるかもしれない。会見全体は見ていないが、この辺りはユーザーとの丁寧なコミュニケーションが必要になるところであり、対応を誤れば大きな問題にもなりかねないので注意したい。

とはいえ、とっても不便だったので、もっと請求したい…

ユーザーの中には補償金額に満足できない方もいるだろう。その場合、KDDIに「重大な過失」があったとして、損害賠償請求訴訟を提起することも可能だ。

この場合、ユーザーは、通信サービスが②「全く利用できない状態」でなくても、また、障害の期間が③「24時間」以内でも、生じた損害の④全額を請求することができる。すなわち、例えば、通信機能が使えなかったっため、ビジネスチャンスを逃したという損害、大事な人の最後の瞬間に立ち会えなかったという精神的損害も補償の対象に入りうるということだ。この場合、補償額は数百円といった単位ではなく、三桁、四桁、もしくはそれ以上の額の補償額となる可能性がある。

さて、問題はこの主張が通るかの見込みである。KDDIの会見によると、今回の通信障害の原因は、古い手順書を使ってしまったために通信機器のルーターの交換作業で設定ミスがあったことにあるとのことだ。これが「重大な過失」であればこの主張は認められ、そうでないなら裁判の手間は水泡に帰す。

これはあくまで私の肌感覚からになるが、KDDI側に「重大な過失」があったというのは少し難しそうだ。これまでの判例の立場を、誤解を恐れずに本件に適用すれば、「重大な過失」があったというためには、意図的に間違った設定をしたと同視できる程度の事情が必要だ。それには、古い手順書を使ってしまったというだけでは不十分で、これに加えて、例えば、手順書の管理がずさんであり、会社の中ではそれが問題視されていたにもかかわらず放置していた、というような事情が必要になってくるだろう。

したがって、もし私の元にKDDIを訴えたいという依頼者が来たら、ちょっと難しいかもしれませんね、という話をせざるを得ないだろう。

補償よりも大切なトップの姿勢

私が感じている空気感からすると、KDDIに「重大な過失」があるとして、訴訟を起こすケースは多くないようのではないか。なぜなら、今回は問題が生じたときのトップの対応が素晴らしく、通信障害自体は不便だったが、訴訟を提起する程KDDIに不満を募らせたユーザーは少ない(むしろ信頼感が醸成された?)と思われるからだ。トップが説明責任から逃げず、また複雑な技術的な話を自らの口で説明できた、というのは大きい。説明責任を果たさないのは論外であるが、例えば、自分は冒頭に陳謝するだけで技術的な話は部下の技術者が話すだけ、という対応だったら、結果は全く違ったはずである。企業の危機管理のお手本のような対応だったように思う。

今後どのような進展を辿るかは分からないが、危機が生じたときのトップの対応は多くの示唆を含むものであり、危機対応の素晴らしい事例であったと個人的には考えている。補償の話も実は法律上論点を含むものであり、今後の展開を見守っていきたい。

ネコは政治家になるのかー「22世紀の民主主義 選挙はアルゴリズムになり、政治家はネコになる」の雑感

これまでは司法修習生は何を勉強すべき?というエントリーを書いていたが、今日は趣味的に本の読書感想文を書いてみたい。紹介する本はこちら、成田悠輔氏の話題の新刊「22世紀の民主主義 選挙はアルゴリズムになり、政治家はネコになる」である。

成田悠輔氏の紹介は私がする必要もないだろう。決して恵まれているとは言えない家庭環境から、麻布中学・高校を卒業し、東京大学に入学。東京大学では経済学論文の名誉ある賞である大内兵衛賞を受賞。その後、マサチューセッツ工科大学(MIT)でPh.D.を取得し、現在はアメリカでイェール大学の助教授をしながら、会社経営もしているというスーパーマンである。

この本の内容としては、私のような彼のファンからすると、成田氏がメディアで断片的に発言している内容を分かりやすくまとめたという内容だ。豊富な脚注から明らかなように、彼の主張はこれまでの研究に支えられており一定の根拠をもっていることが本を読むことでよく分かった。

簡単に彼の主張を復習すると、概要以下のような内容になるだろう。近年、人類は民主主義と資本主義という二つの相反するシステムを利用して発展してきた。しかし、主に民主主義とSNSの相性の悪さが原因となり、民主主義が機能不全に陥っている。そのため、ある者は選挙のデザインを変えることで民主主義を改良しようとしており(民主主義との闘争)、ある者は国家の主権の及ばない場所で自らの「国」を作ることで民主主義から逃走しようとしている。これらの試みは成功している面もあるがそうでない面もある。しかし、これらはいずれも民主主義が持つ弊害を解決するものではない。そこで、成田氏が主張するのが「無意識民主主義」だ。無意識民主主義では、まずは膨大なデータから民意をくみ取る。選挙はそのようなデータの一つになる。ここでいう民意とは具体的な政策決定というより、価値判断のための軸という意味に近い。そして、この価値判断(民意)に基づき政策が決定されるのであるが、具体的な政策内容は過去のデータに基づき決定される。このように現在の選挙の役割はアルゴリズムに取って代わられるようになる。そして、上記の過程においては国のデザインを決めるという政治家の役割は不要である。残る政治家の役割はマスコットキャラクター/サンドバックとして役割であるが、これはVtuberでも猫でもゴキブリでも代替可能であるはずだ。このようにして、「選挙はアルゴリズムになり、政治家はネコになる」のだ。

(成田氏の主張をまとめてみると、彼の主張がいかに論旨明確で、そして筋の通ったものであることを改めて思い知らされる。。彼がおもしろコメンテーターということでメディアで持てはやされているだけでなく、アカデミックの世界でも認められている理由がよく分かる。。)

さて、ここからがお恥ずかしながらの凡人の感想だ。無意識民主主義のコンセプトはよく分かるし、成田氏の主張を読んでいると、それが現実的な未来であるように思える。成田氏の主張のような抜本的なものかは分からないが、今後、「選挙はアルゴリズムになる」だろう。しかし、「政治家はネコになる」のか?私はその点に興味がある。

成田氏の主張は、現代の社会では区別をすることを否定的にとらえる傾向が強くなっていることから、今後人間と他の生物を区別する時代がくると予想している。そして、これが「政治家がネコになる」根拠の一つとなっている。成田氏の指摘のとおり、マスコットキャラクターとしての政治家は既に動物にとって代わられた例がある。しかし、政治家のもう一つの役割として(本人の指摘しているような)サンドバックの役割としての政治家が近未来のうちにネコにとって代わられるだろうか。

成田氏は、今起こっている事象として政策失敗の責任を政治家がとっていないことを理由に、この役割はネコでも(ゴキブリでもVtuberでも)担えると主張している。しかし、サンドバックとしての役割の政治家は、責任をとる・とらないの話の前に、社会の批判の対象となり社会のガス抜きの役割というのもあるのではないかと思う(念のため付言するが、これは行き過ぎては当然いけない)。この役割は、例えば、タレントやYoutberが担えるという指摘もあるかもしれないが、「私の生活がよくないのはあなたのせいだ」という普遍的で根源的な怒りの矛先をタレントやYoutberに向けるのはお門違いだろう。

これと同様に、政策決定に関与していないネコを批判することで、国民の怒りのガス抜きはできるのだろうか。無意識的民主主義が実現したとしても、どこかで取り残され、彼らの彼女らの生活に不満を持つものがいる。その不満の矛先にネコはなりうるだろうか?ネコに対して、その不満をぶつけてカタルシスを得る人はなかなかに想像できない。ネコは政策決定をしていないからだ。これは、人間は、意思決定者と違うモノを批判することガス抜きをしたり、又は「誰の責任でもない」という状況を耐えられるだろうか、という疑問である。

仮に上記のような人間の意識の変化があれば、この社会は大きく変わるだろう。人間は労働から解放される可能性は限りなく高くなる。例えば、弁護士の仕事もそうだ。私は、少なくとも現在の人間の意識を前提とすれば、どんなにリーガルテックが進んでも弁護士の仕事はなくならないと思っている。なぜなら、リーガルテックは責任をとれないからだ。たとえリーガルテックが出した答えをコピペしたものであっても、弁護士が責任を持ってアドバイスをするからこそ、依頼者はそのアドバイスを依拠できる。依拠とは信頼という意味もあるが、「弁護士に相談した」「弁護士がこう言っていた(ので自分は責任がない)」という責任転嫁又は証拠づくり的な側面もあるだろう。問題が発生したときの責任主体になるというのも、我々の仕事の一部であり、ここはどこまでいってもテックが代替できない(アルゴリズムを作成した会社が事実上そのようなリスクをとれないことを含む)と思っているからこそ、弁護士の仕事はなくならないと私は考えているのだ。しかし、意思決定者以外の者を責任追及することで許され、又は、「誰も悪くない」ことが人間が許容すれば、究極的には弁護士は不要になるのだろう。他の多くの専門家(医者、会計士etc)もそうだろう。

では、上記のような意識の変化は訪れるのだろうか。私はどちらかという懐疑的であり、少なくとも数十年単位ではそのような変化は起こらないと思っている。自動運転の例にして考えると分かりやすいかもしれない。数十年(若しくは十年以内)のうちに自動運転は実用化され、人間の運転よりも安全なものになるであろうが、そのときに「誰も悪くなかった」では済ませれないだろう。自動運転が実用化した場合でもドライバはドライバー席に座ることが義務付けられ、事故の責任を負わされるであろう。仮にそれを乗り越えたとしても、問題が生じたときは、アルゴリズムを作成した会社に対して責任をとるよう訴えるだろう。

つまり、「政治家はネコになる」ためには、意思決定者と違うモノを批判することガス抜きをしたり、又は「誰の責任でもない」という状況を耐えられることが必要となるが、そのような認識の変化が起こるのは難しい思われる。仮に、「選挙がアルゴリズム」になった場合、「政治家はネコになる」のではなく、「政治家はアルゴリズム作成者」になるのではないだろうか。しかし、そのようなリスクを背負ってまでアルゴリズムの作成をしたいと思う人はどれだけいるだろうか?アルゴリズム作成者を隠せばよいではないかというアイディアもあるかもしれないが、そうすると、すぐに陰謀論がささやかれ、一部の人はそれに熱狂し、現状を打破しようとするだろう。

私は「選挙がアルゴリズム」になったら、「政治家はアルゴリズム作成者」になるのではないかと考えているが、シンギュラリティを超えて機械が人間よりも有能であることが明白になったら、人間の認識は大きく変わるかもしれない。アルゴリズムが間違えたのだから仕方ないよね、という感覚が普通の感覚になる可能性も大いにある。成田氏がこの点をどう考えているか是非話を聞いてみたいところだ。

司法修習生は何を勉強すべき?各論(2022年版):留学希望者はやっぱりTOEFL

このエントリーの更に各論:

 

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さて、留学を経験した弁護士が上級者ぶって(全く上級者ではない)、これまでの失敗を踏まえて、英語の勉強方法について書いてみたい。

まずは留学を目指している人に対してのアドバイスから始めたい。このような人に対する回答はとてもシンプルでTOEFLの勉強を始めてみる、ということだ。TOEFLの勉強をすれば、聞く話すを含め、英語の4技能をバランスよく伸ばすことができると思う。また、ll.m留学の難関ははっきり言ってTOEFLだけと言っても過言ではなく(TOEFLである程度がとれれば(例えば、105点くらいが目安だろうか)、Top15のロースクールのどこかには必ずひっかかる)、司法修習中にTOEFLの勉強をしておき、慣れておくことは将来の留学にとって大きな意味がある。

さらに、司法試験で「勉強」慣れをしている皆さんであれば、「勉強」をすることは慣れていると思うし、なにより点数という分かりやすい目標ができるので勉強を続けるモチベーションにもなるだろう。受験時は過去2年までのTOEFLの点数しか使えないため、残念ながら多くの方は、司法修習中のテストの点数は留学のときには使えないが、司法修習中に例えば100点をとっておけば、留学前に勉強を再開したときに大きなアドバンテージになるはずだ。また、就職した事務所にどうもなじめなかったような場合でも、思い切ってさっさと留学に行き、キャリアを変えるという道もある。例えば、いわゆる町弁からキャリアを始めたとしても、ロースクールを経れば、企業の法務部や企業法務の事務所に転職することは(特に若手であれば)現実的な選択肢になるだろう。

さて、私のような平均的な日本人はTOEFLを始めて受験するときは面食らうと思う。私は英語に苦手意識ははなかったが、全然わからなくて(こんなに分からなかったのは高校の数学のテストぶり)60点くらいだったと思う。でも、安心して欲しい。日本の司法試験を突破してきた受験エリートのみんなであれば、TOEFLでもやることは結局一緒で、過去問を研究して、頻出する問題、単語、そして使いまわせる表現を覚えるということを愚直に記憶していけば、すっと点数はあがる。ただし、TOEFLも試験であるということ、すなわち「勉強」しなければ点数が伸びないということはよく覚えていて欲しい。私は何を勘違いしたか、1回目の受験のときは、仕事にかまけて勉強をせずにTOEFLに臨んでいた。そのため、まったく点数が伸びずに失敗に終わった。2年目は1年目の失敗を踏まえ、1日1問でもよいので問題を解くようにした。その結果、2年目は目標点であった100点を超える点数をとり、無事に東海外のロースクールに留学することができた。日々の勉強でTOEFLの点数は必ず上がる、これを肝に銘じて、いわゆる「勉強」をして欲しいと思う。

さて、では具体的なTOEFLの勉強方法について、一つだけTipsを紹介したい。なお、TOEFLの勉強方法を紹介している良質のブログ記事はたくさんあるので、より具体的な勉強方法はそちらを参考にされたい。

私がこのエントリーで唯一お勧めするのはAndy先生が主催するTOEFL勉強塾への参加だ。

andymina.blog136.fc2.com

この勉強塾は1日の短期集中型で、TOEFLの勉強方法、実際の解き方を習い、また、試験勉強のキーアイテムである過去問を大量にもらうことができる。

Andy先生の授業はスパルタだった記憶があり、授業でいきなりスピーキング問題を解かされた思い出がある。人前で英語を話すのがほぼ初めてだったので、帰り道は恥ずかしくて、穴があれば入りたい気持ちになったのをよく覚えている。しかし、この勉強塾は本当に効果的だ。

道のベテランがTOEFLの最短の勉強方法を教えてくれる。ブログで無料でTOEFLの勉強方法を探すこともできるが、個人の体験記はどうしても主観的なものとなってしまい、「その人」にとっては効果的だったかもしれないが、それがあなたにとっても効果的という保証はない、というものになってしまう。しかし、Andy先生の指導は毎年100名以上の生徒を見てきた結果であるので、あなたにも効果的な勉強方法である確率が高い。

そして、なにより素晴らしいのが大量の過去問を仕入れることができるのだ。これにより、僕らが18歳(人によっては12歳)からしてきた、過去問から問題の傾向を知り、分析をし、暗記するという王道パターンが使えるようになり、ぐっと合格点に近づくことができる!

また、値段も高いと書いたが、他の大手の予備校に比べると格安だ。大手の予備校は多くの授業と教材を提供しているため、十数万円、場合によっては数十万円という価格帯になっている。しかし、過去問から出題者のくせを見抜き、作問者の過去の研究から今年の問題を予想し、出題趣旨から出題者の意図を推論し、採点実感から求められる回答を妄想してきた我々のような受験エリートは、多くは不要である。過去問があれば、そのテストで何が求められ、何を勉強すればいいかはおのずから見えてくるはずだ。多くの授業などはいらないし、塾オリジナルの問題も不要な我々からすれば、Andy先生の勉強会で十分なのだ。

なお、私が受験したころは、Andy先生の授業は東京でのみ開催されていたが、どうやら今はネットで開催中で、全国どこにいても受講が可能なようである。

是非、将来留学を考えている司法修習生にはAndy先生のTOEFL勉強会を受講していただきたい。

なお、私はAndy先生の回し者ではないので悪しからず。。

司法修習生は何を勉強すべき?各論編(2022年版):英語の話す聞くを勉強すべき

昨日のエントリーの各論:

 

businesslaw-diary.com

 

昨日は修習生は勉強をする習慣をつけろ、と偉そうに述べた。ただ、それだとあまりに抽象的なので今日のエントリーでは私がおすすめする勉強科目をお伝えしたい。

 

まずは、英語、特に話す聞くの英語だ。私は事務所に無理を言って留学させてもらった。私は1年留学すれば英語を「ペラペラ」になれると信じていた。しかし、その妄想は残念ながら見事に裏切られた(事務所の皆さん大変すいません。。)。1年ちょっとの英語では話す聞くは全く伸びなかったのだ。

 

しかし、たとえそうだとしても、行く前と後を比べると話す聞くは少しではあるが確実に伸びた。あと2、3年間アメリカに住んでいれば、話す聞く話す・聞くの勉強を続ければ、日本の弁護士会においては相当程度英語力のある人間とみなされるという感覚がある(だからといってもネイティブのように話せるとは思っていない)。

 

では、日本に戻ってきた今、英語を伸ばすことができるのか?答えるはできるだ。正直ロースクール留学では話す機会はそれほどにない。聞くといっても授業を聞くくらいだ(半分も分からなかった)。その面でいうとロースクールで英語が伸びたという感覚はない。自分の英語が伸びた理由は、留学中もオンライン英会話を地道に続け、海外のドラマを英語字幕で観て(今でも全く分からない)、携帯のアプリで発音練習を続けたからだ。しかも、これを1日3時間、4時間続けたのではない。1日1時間程度これらの勉強をつづけただけだ。それでも、(僅かではあるが)英語力は伸びた。オンライン英会話、海外ドラマの英語字幕での視聴、発音練習の全ては日本でできる。1日30分は英語の勉強をする時間はどんなに忙しくても捻出できるはずだ(捻出できないときもある)。

 

英語能力の話す聞くについていえば、修習生の皆さんが思っているよりも、日本の弁護士のレベルは圧倒的に低い。大学までの教育を海外で受けたという特殊な事情がない限り、最前線で働いている弁護士もペラペラとは程遠いのではないか。したがって、英語が話せる、聞ける人材はブルーオーシャンだ。しかも、英語が話せる、聞けるは1年、2年という単位で身につくものではない。5年、10年レベルの超長期間の時間を投資する必要がある。すなわち、参入障壁が非常に高く、一度そちら側に行けば英語ができる人材として重宝されるだろう。なるべく早く英語ができる側の人材になるために、英語の勉強は可及的速やかに始めることをお勧めする。

 

ここで、そんなのテックで解決されてしまうのでは?と疑問が湧く。私としては、答えはNoだ。想像してみて欲しい。戸田奈津子氏を介して、トム・クルーズと仲良くなれるだろうか?国際会議の参加者は信頼関係が築けているだろうか。私が思うに、同時通訳がいたとしても、信頼関係を築くのは難しい。したがって、テックの力でほぼ同時通訳と同じことが実現したとしても、それだけでは信頼関係を築くのは難しいと思うのだ。前回のエントリーでも書いたが、信頼関係を築けた人が自分の依頼者になる。そのため、ただ話すことができる聞くことができるでは依頼者を獲得という観点からは物足りない。信頼関係が築けるだけの英語力が必要なのだ。そのためには、自らで英語を話す・聞くことができるというのが大きな助けになると思うのだ。(なお、そうすると英語力関係なしにコミュ力が高ければ、依頼者を獲得できるということになるが、それはそのとおりだと思う。ただ、語学が通じない中、プロフェッショナルな意味で信頼関係を築くのは相当に難しい)

 

ちなみに、英語の読み書きについては、日本の弁護士の能力は圧倒的に高い笑。ロースクールでも同期の四大出身の弁護士は圧倒的な読み書き力を発揮し、(私と同じくらいの話す聞くのレベルのくせに)優秀ペーパー賞を受賞し、成績優秀者で卒業していった。悲しいがそういう人はいるのだ。しかし、そんな四大出身の彼・彼女も話す聞くは他の日本人と大差はなかったのだ。したがって、話す聞くは頭の良し悪しに関係ない。いかに英語を使ったかに大きく依存しており、だからこそ修習生には英語の勉強を始めて欲しいのだ。

 

しかも、読み書きこそテックでほぼ解決済みだ。DeepL等を上手に使えば、私のようななんちゃって留学生と遜色のない英文を書くことができる。また、DeepLで翻訳してしまえば、ほとんど日本語で書かれた物と変わらないスピードで複雑な文章を読むこともできる。また、業務で使う英語は限られているので、これこそ実務に入って実地で学んだ方が効率がよいので、修習生はあまり気にする必要はない。

 

英語ができるようになると大きく選択肢が広がる。企業法務の弁護士であれば、どこにいっても重宝されることは間違いない。日本に投資したいという依頼者を獲得することや、海外の弁護士と仲良くなり依頼者を紹介してもらうということもあるだろう。外資系企業のインハウスや、場合によっては外資系事務所に入所・転職することも十分可能であろう。海外で働きたければ、インハウスとなり日本企業の海外支社で働きたいと申し出たり、日系の事務所に就職し海外オフィスで働かせてもらうというのも十分に可能だろう。一般民事をするにしても、昨今外国人絡みの問題が増えている。彼らに寄り添い、彼らの助けになるためには英語ができることが大きな力になるはずだ。

 

以上、英語ができない弁護士が英語の効用を頑張って書いてみた。私もつらい思いをしながら英語の勉強を続けており、自分の可能性が広がっていることを感じるとともに、もっと若い時から勉強しておけばよかった、、と強く思っている。今はインターネットでなんでも格安で学べる素晴らしい時代だ。この時代を十分に利用し、若い人たちと切磋琢磨して自分の英語力を伸ばしていきたい。

明日以降は元気があればさらに具体的にどうやって英語を勉強するかについて書きたい。

司法修習生は何を勉強すべき?総論編

最近話題になっている修習生は何を勉強すべきという質問に対する私なりの回答について少し書いてみたい。修習生時代なんて(遠い目…)という感じではあるが、実務に怯えていた当時の自分を思い出し、当時の自分にかけてあげたい言葉を考えてみる。

まず、印象論にすぎないが、リーガルマーケットの現状認識について話したい。まず、街弁な仕事(一般民事、刑事、行政事件)の仕事の需要はどうなっているだろうか?これはあまり変わっていない、体感としてはもしくは減っているような気もする。司法統計の近年の傾向を見ると、裁判所に係属した事件数は2003年の6,070,201をピークに基本的に右肩下がりである。例えば、新司法試験が開始された2006年には5,074,097まで下がっており、直近5年の数字は約350万件に落ち着いている。これはピーク時の半分に近い数字だ(2003年は働いていなかったので、このときと比較したときの事件数の肌感覚は私は持ち合わせていない)。

年次

全事件数

平成27年

3 529 852

平成28年

3 575 743

平成29年

3 613 870

平成30年

3 622 535

令和1年

3 558 317

引用:https://www.courts.go.jp/app/files/toukei/544/011544.pdf

もちろん裁判の事件数と街弁的な仕事の量は因果の関係にあるわけではないが、相関関係はあると考えられる。他方で、ご存知のとおり、新司法試験の導入により法曹の数は増え続けている。需要が減り(もしくは変わっておらず)、供給が増えているという典型的な競争激化の状況だ。新司法試験導入時は、法曹が増えれば、仕事も増えるという楽観論がまことしやかに述べられていたが、それは少なくとも街弁的な仕事については楽観論にすぎなかったといえるだろう。そして、需要が少ないというこのトレンドは人口減社会を考えれば、長期的に続くことは必至だろう。

では、企業法務についてはどうだろうか。これは少しずつであるが伸びているという印象を受ける。複雑化する法規制、国境を超える取引、M&Aのような大規模取引の日常化、コンプライアンス強化等々リーガルマーケットを広げる要素はたくさんある。これは世界全体のリーガルマーケットの話であるが、2021年から2027年の期間において毎年4.4%の成長が期待されているというレポートもあるようだ。

prtimes.jp

しかし、将来はバラ色かというとそうでもない。企業法務のキャッシュ・カウは、M&A、独禁法対応、大規模倒産対応、危機管理対応とここ十数年は次々と発見されてきたが、ここ数年は新たなキャッシュ・カウを見つけられていない。規制の複雑化、大規模案件の恒常化により少しずつ企業法務の需要は増えているが、大きく儲けることが難しくなっている。より若手にとって問題なのは、企業法務のメイン・プレイヤーの高齢化だ。日本の法律事務所は定年制があるところ少なく(一部の四大事務所や外資の事務所は定年制があるようだが、どうやら引退して独立という方も多く、多かれ少なかれ依頼者はそちらについっていってしまうこともあるようだ。)、弁護士側の新陳代謝が起こっていないように見える。

したがって、リーガルマーケットの全体感で言うと、一般民事は減少傾向、企業法務は微増傾向だが、供給面は増加傾向であり、競争が激化している。特に若手は厳しい環境にあり、一般民事は飽和状態、企業法務は需要はあるものの弁護士間の新陳代謝が進んでおらず、古くからのクライアントがいる大先生は売上を伸ばしているが、若手が新しくクライアントを獲得することは難しい状況にある。

以上が現役弁護士が感じているリーガルマーケットの肌感覚である。ツイッターを見ていると、牧歌的なアドバイス(たくさん遊べ、今しかできないことをしろ等々)が並んでいるが、それはいいタイミングでリーガルマーケットに入り成功した先人の教えであり、これを鵜吞みにするのはお勧めできない。

修習生の皆さんが考えるべきは、一人の弁護士として、この厳しいリーガルマーケットをどうサバイブして、そして成功するかを真摯に考えることだ。

さて、そのために具体的に何が必要か、と考えると、、、、誰も分からないというのが正直なところだろう。リーガルテックの発展、気候変動、規制強化、人口動態等不確定要因が多すぎて、これをすれば絶対大丈夫!という、確信めいたアドバイスは誰もできない。スキルセットレベルで長期的に何が必要というのを言い当てるのは中々に難しい状況だ。そうなると、考えるべきは必要なスキルではなく、資質の問題になるが、この答えについては10年以上弁護士をして確信めいたものを持っている。それは、学び続ける姿勢だ。法曹で成功している人を見ると、おしなべて(驚くほどの)勉強家である。これは法律に限らず、知識の幅と深さがある人が成功していることを強く感じる。したがって、修習生が修習中に身に着けるべきことは「勉強し続ける」習慣であろう。

司法試験の名残もあるので、修習生にとって、勉強することは当たり前かもしれない。しかし、これが実務になると大きく変わる。ストレスが増えるからか、忙しいからか、実務に出ると、(若手にしては給料が多いので)暇があれば飲み明け暮れ(人によっては打つ買うでも散財し)、みるみるうちに体型が変わっていく人を多く見る。

実務に出て勉強すればよい、というアドバイスを目にすることがあるが、これは半分正解で半分間違いだ。すなわち、実務に出て、目の前の事案の解決に必要なことは誰でも勉強する。ここでは差はつかない。差がつくのは、目の前の仕事に直接関係ない勉強を、仕事をしつつも継続して続けられるかどうかだ。これをできている人は本当に少ないし、これができている人が成功している。なにも司法試験受験生の頃のように、1日10時間程度勉強しろ、といっているのではない。毎日数十分の勉強を1年、2年、3年、4年…と続けられるかが重要なのだ。

大事なのは、他の弁護士と違いを作り出すことだ。したがって、何を勉強するかは問題ではない。法律以外のことを勉強しても全く問題ない。重要な事は勉強を続けることだ。そのためには、好きこそものの上手なれ、であり、自分の好きなことをするのが一番だ。英語が好きな人は英語を勉強すればいいし、テック周りの最新の話題に興味ある人は最新話題を勉強すればいい。M&Aに興味があれば、会計やバリュエーションを勉強するのもいいだろう。司法修習では、好きなものを見つけ、そして、どんなに忙しくて(2回試験の直前でも1日10分はそのことを勉強する時間は見つけられるはずだ)もそれを勉強する時間を作る、これを習慣化するのが修習時代で一番大事だ、と私は考えている。

さて、これを踏まえても、お前なら何を勉強するんだ?という声が聞こえてきそうだ。この件については、毎年アップデートするのもおもしろいと思うし、あまりに長くなってしまいそうなので、明日以降エントリーで書くことにしたい。

もう一つ、修習生に伝えたいのは、人とのつながりを大切にするということだ。弁護士の仕事はお客様ありきだ。お客様が仕事を運んできてくれる。お客様は信頼関係をベースに依頼をしてくれる。したがって、多くの人と信頼関係を作っておくことが重要だ。ただ、これには向き不向きが色濃くでる分野で得意な人もいればそうでない人もいる。得意な人は勝手に知り合い・友人が増えていくので、全く心配していない。このエントリーでは、それでもこれが重要だと、自分のような内気でシャイな修習生に伝えたい。

上に書いたことと矛盾するが、友人作りが得意ではない人は無理に交友関係を広げる必要はない。あなたがいい仕事をしていれば、お客さんはリピートしてくれるし、弁護士一人が生きていく上ではそこまで多くのお客さんは必要ない。それでも人とのつながりを大事にして欲しいと思う。これはもう弁護士のキャリア論を超えた話になってくる。仕事をし始めると大きく変わることの一つは、勉強をしなくなることと、友人ができなくなることだ。よく言われていることだし、実感もなかったので、私も働くまでは嘘だと思っていたが、これは本当に本当だ。働きだすと、日々の業務に忙殺され、どうしても友人関係の優先順位が落ちてしまう。仕事と家族だけで手いっぱいになってしまう。

仕事で出会う人と本当に打ち解けるのは難しい。これは弁護士という職業がそうさせている面もあると思う。「本当は仕事でわかんないことがあって不安なことも大きいんですよ」と、弁護士が依頼者に腹を割って話せるだろうか?仕事をとるために、芯の芯のことは話せないことが多いのだ。法曹同士というのも実はやっかいだ。同じ業界だと比較もしやすく、勝ち負けが分かってしまう。10年も法曹をしていれば、その辺りが分かってしまうので、法曹同士で話すとどうしても色々な感情が湧いてきてしまう。家族がいるではないか、という人もいるが、家族に話せない話はたっくさんある。例えば、売上が低くて困っているとき、家族には心配させないようにして本当のことは誰も話さないだろう。

なので、心から腹を割って話せる友人の効用は本当に大きい。これが楽しい人生とそうでない人生を分けると言ってもいい。具体的に働き始めた後のことを想像してみて欲しい。弁護士の仕事は基本的にあまり変わらない。平日はデスクの前で資料を見て、裁判所に行って、夜遅くまで働く。休日は家族と時間を過ごして、平日のためにいつもより少しだけ多めに寝て、この繰り返しだ。この繰り返しのなかで心から楽しいと思える瞬間を作るのが本当に重要になる。そのために友達は絶対に必要だ。少人数でいい。法曹以外の人でもいい。地元の連れでもいい。親友と呼べる人を是非見つけて欲しいと思う。

以上が私が考える修習生に対するアドバイスだ。弁護士を10年以上続けてきた思いの丈をこのエントリーにぶつけてみた。おっさんの戯言だと冷笑してもらっても構わないが、少しでもタメになる部分があったら明日からの行動に少しでも反映してもらえると嬉しい限りであろう。

ただ、総論すぎて多くの人の毒にも薬にもならないエントリーだったと思うので、明日以降のエントリーは具体的でもう少しタメになるエントリーにしたいと思う笑