ビジネスロー・ダイアリー

中年弁護士の独り言兼備忘録

13兆円の損害賠償の行方 - 東電旧経営陣が負う経営責任④

昨日のエントリーの続き:

 

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さて、今日は役員等賠償責任保険について書きたい。会社法は役員等賠償責任保険契約について締結手続き(例えば、東電の場合は取締役会の決議が必要)を定めているにとどまり、その具体的内容は保険会社と会社の間の契約に委ねられている。もっとも、その内容は事業報告書等に開示されることとなる(会社法施行規則第121条の2)。東電の開示資料によると、その内容は以下のとおりである。

4. 役員等賠償責任保険契約の内容の概要

当社は,会社法第430条の3第1項に規定する役員等賠償責任保険契約を保険会社との間で締結し,被保険者がそ の職務の執行に関し責任を負うこと又は当該責任の追及に係る請求を受けることによって生ずることのある損害を当 該保険契約により塡補することとしております。ただし,被保険者が法令に違反することを認識しながら行った行為 に起因する損害は塡補されないなど,一定の免責事由があります。  当該保険契約の被保険者は当社の取締役及び執行役並びに東京電力リニューアブルパワー株式会社,東京電力フュ エル&パワー株式会社,東京電力パワーグリッド株式会社及び東京電力エナジーパートナー株式会社の取締役及び監 査役であり,保険料は当社が全額を負担しております。

引用:https://www.tepco.co.jp/about/ir/stockinfo/pdf/220526_1-j.pdf

 

ここからは多くのことが読み取れないが、免責事由として「法令に違反することを認識しながら行った行為 に起因する損害は塡補されない」という規定があることが分かる。これが一つの争点になるだろう。すなわち、報道によると、東京地裁はあくまで旧経営陣の「過失」を認めた、とされており、「法令に違反することの認識」までは認めていないように思われる。そのため、保険会社としてはこの規定を適用して支払いを免れることを試み、旧経営陣・会社としては、そこまでの認識はないと反論して、保険支払いを要求することになるだろう。

その他一般的な役員等賠償責任保険で免責対象となっているもので、今回適用可能性があるものとしては、「戦争、内乱、変乱、暴動、騒じょうその他の事変に起因する対象事由」(参考:https://tmn-do.jp/about/index01.html)が挙げられるだろう。福島第一原発の事故は、原子力損害の賠償に関する法律において原子力事業者が免責となる「巨大な天災地変又は社会的動乱」(原賠法3条1項但書)には該当しないと整理されているが、あくまでこれは原賠法上の議論であり、個別の保険契約の適用との関係では、この規定に該当するとの主張が認められる可能性もあるだろう。ただし、この規定の例示が戦争等の人為的な混乱であり、自然災害に起因する問題である福島第一原発の事故がこれに該当するかというと疑問符が残ることろである。

こうみると、保険があるから取締役は大丈夫だ、という議論すら怪しいことが分かる。

以上見てみた通り、取締役のリスクをとった経営判断を担保するため、会社法は様々なメニューを用意しているが、今回に限って言えば、いずれも機能しない可能性があり、取締役の十分なプロテクションにならない可能性がある。今回は原子力事故という社会的に大きな問題であったため、逆にプロテクションが働かない方がいいのだという議論も当然あるだろう。しかし、個人の意見としては、13兆円という天文学的数字を個人の責任とするのはいかがなものかと直感的に思う。13兆円は会社が被った損害の一部であるが、旧経営陣の過失と損害について相当因果関係があったのか、この点についてどのように裁判所が判断しているかは気になるところである。裁判所のトーンを見ると、東電旧経営陣の過失を叱責するもののようであるが、損害の範囲の算定において、旧経営陣に対する「懲罰的」又は「社会的な制裁」な思惑が入っていないのか、検討する必要があるだろう。なぜならば、日本の損害賠償法理は、あくまで損害補填であり、「懲罰」や「社会的な制裁」の文脈で語られるべきものではないからである。

いずれにせよ、この額の損害賠償が認められたことは画期的であり、今後の取締役の責任を考える上で重要な裁判例となるだろう。しかし、この裁判は今後も上級審で争われるはずであるので、今後の趨勢を見守りたいと思う。

13兆円の損害賠償の行方 - 東電旧経営陣が負う経営責任③

昨日のエントリーの続き:

 

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今日は、5.会社との間の補償契約について考えてみよう。会社との間の補償契約とは、(1)取締役の訴訟等対応費用、又は(2)取締役が第三者に対して支払う損失額や和解額を会社が負担する約束のことである。一見、なぜ会社が取締役の訴訟等対応費用や損害を肩代わりする必要があるのか、と思うかもしれないが、上記のとおり取締役の責任は大きくなることがあるので、取締役のリスクをとった経営判断を可能とし、それにより会社に利益をもたらすことができる仕組みが必要となる。この仕組みの一つとして、この契約が必要な場合があり、その点に補償契約の経済合理性が認められる。

補償契約の内容は個々の契約ごとにより異なっており、したがって、補償対象も個々の契約によって異なっている。しかし、補償対象が過度に広がることを防止するため、会社法は(1)通常要する費用を超える訴訟等対応費用(なお、訴訟等対応費用については通常要する費用の範囲内であっても、自己若しくは第三者の不正な利益を図り、又は当該株式会社に損害を加える目的とするときは会社は補償金の返還を求めることができる(会社法430条の2第3項))や(2)取締役が悪意又は重大な過失がある場合における損失・和解金の負担は補償契約の対象とすることを禁止している(会社法430条の2第2項)。

では、東電における補償契約はどうなっているのか。これを知る方法はないのか?この点、会社と取締役が補償契約を締結した場合、かかる概要を事業報告に記載する必要があり(会社法施行規則121条第3号の2)、東電についてもその内容を確認することができる。東電の事業報告には、補償契約について以下のとおり説明している。

3.補償契約の内容の概要

当社は,会社法第430条の2第1項に規定する補償契約を取締役及び執行役全員との間で締結し,同項第1号の費 用及び第2号の損失を法令の定める範囲内において補償することとしております。ただし,当社が各取締役又は各執 行役に対して責任追及等を行う場合(株主代表訴訟による場合を除きます。)の費用等については当社が補償義務を 負わないこととするとともに,各取締役又は各執行役がその職務を行うにつき悪意又は重過失があったことが判明し た場合等には当社が補償金の返還を請求できることとしております。

引用:https://www.tepco.co.jp/about/ir/stockinfo/pdf/220526_1-j.pdf

この規定によると、会社法上の制約を超えた制約としては、会社自身が訴訟当事者となる場合を広く補償対象から外していること、訴訟等対応費用についても悪意又は重過失があった場合には広く補償金を返還できるとしている(会社法の原則では訴訟等対応費用については自己図利目的又は加害目的がある場合にのみ会社は返還請求できる)ことの2点を挙げることができる。

これを前提に今回の件を見てみると、まず13兆円という額であるが、これは取締役が会社に支払う額であり、「第三者」に支払うものではない。したがって、補償契約の対象とはならない(補償契約の対象は取締役が「第三者」に支払う損害又は和解金に限定されている)。そうなると、対象となり得るのは訴訟等対応費用についてのみであるが、これも上記のとおり「悪意又は重過失がある場合」には補償の対象とならない。昨日のエントリーでも触れたとおり、東京地裁の判決を前提とすると旧経営陣の「悪意又は重過失」ではないというのは難しいように思えるためである。

したがって、補償契約をもってしても取締役の防御としては弱いように見える。そこで、最後の砦となるのが役員等賠償責任保険契約であるが、この辺りで力尽きたので、この点は明日また書くことにしたい。

続きはこちら:

 

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13兆円の損害賠償の行方 - 東電旧経営陣が負う経営責任②

昨日のエントリーの続き:

 

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まずは3.取締役会の決議に基づく責任の一部免除について検討したい。これは定款に「取締役会の決議がある場合には取締役の責任を一部免除できる」との規定がある場合に、取締役会の決議により取締役の責任の一部を免除するものである。そこで、まずは東電の定款にそのような規程があるかというと、、、

(取締役の責任免除)第29

本会社は,会社法第 426 条第 1 項の規定により,取締役が職務を行うにつき善意でかつ重大な過失がない場合は,取締役会の決議によって,その取締役の同法第 423 条第 1 項の責任を法令の限度において免除することができる。

引用:https://www.tepco.co.jp/about/ir/management/pdf/teikan-j.pdf

 

このように定款の規定はあるため、第一の要件はクリアしている。次のハードルとして、旧経営陣が福島第一原発の事故に関して「善意でかつ重大な過失がない」必要がある。すなわち、過失はあるものの、その程度が低い(例えば、福島第一原発の事故の予見は通常の経営者であれば可能であったが、対策を講じるまでの時間的制約があり、予見が可能となってから事故発生までに対策を講じるのは(不可能ではないものの)実務上は困難であるような場合が考えられるだろうか?)場合にのみ、このハードルをクリアできる。

今回の東京地裁の判決全文についてはアクセスできていないが、報道によると、「原子力事業者に求められている安全意識や責任感が根本的に欠如していたと言わざるを得ない」と旧経営陣の態度を厳しく非難しているようである。このことからすると、東京地裁の判決をベースにすると、過失の程度が低いと結論付けるのが難しいかもしれない。

更なるハードルとして、会社法上、この規定に基づき免除をした場合はその事実を公告する必要があり(会社法426条3項)、総株主の議決権の100分の3以上の株主が異議を申し立てた場合、かかる免除は行えないこととなっている(会社法426条7項)。したがって、取締役会の決議でいわば秘密裏に事を進めることをできず、結局は株主から反対されて免除ができなくなる可能性がある。

以上を総合すると、この方法は定款には規定があるものの、なかなかにハードルが高いことが分かる。。

今日はこの辺りで。明日は5.の方法について検討したい。

続きはこちら:

 

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13兆円の損害賠償の行方 - 東電旧経営陣が負う経営責任①

東京地裁は、福島第一原発の事故に関して、東電の旧経営陣に対して合計13兆3000億円の支払いを命じる判決を下した。この判決は、東電の旧経営陣に対する民事上の責任を認める始めての判決であることはもちろんのこと、その13兆円という莫大な損害賠償を認めたことから大きな注目を集めている。

 

www3.nhk.or.jp

 

この判決一つをとっても多くの論点があるが、今回は約13兆円という損害賠償の支払いを命じられた場合、本当に、本当に、旧経営陣は全額支払う必要があるのかという点に絞って考えてみたい。

検討に入る前にいくつかこの検討の前提について話したい。一点目としては、この東京地裁の判決は、まず間違いなく上訴されると考えられるので、今後上級審が異なる判断を下す可能性があるが、この検討では東京地裁の判決が確定したことを前提として議論したい。また、本来的には事故当時の規定が適用されるはずであるが、頭の体操のための検討なので(あけっぴろげに言うと過去に遡って規定を確認する余力がない。。苦笑)、現在の法令・内規等が適用されることを前提に検討したい。

さて、まず大前提として、会社法上、取締役は、いわゆる善管注意義務を会社との関係で負っており、誠実に会社経営をすることを求められている。この善管注意義務に違反した場合、取締役は会社又は第三者に対してそれらが被った損害を賠償する責任を負うのであるが、会社経営という性質上、この損害額は大きくなることが多い。そのため、会社法は取締役の損害賠償義務を限定するメニューをいくつか定めている。具体的には、以下のとおりである。

  1. 総株主の同意による責任免除(会社法424条)
  2. 株主総会の決議に基づく責任の一部免除(会社法425条)
  3. 取締役会決議に基づく責任の一部免除(会社法426条)
  4. 会社との間の責任限定契約に基づく責任の一部免除(会社法427条)
  5. 会社との間の補償契約(会社法430条の2)
  6. 役員等賠償責任保険契約(会社法430条の3)

では、このメニューのうち、今回はどれを使うことができそうか?

まずは、使えなそうなものをピックアップしてみよう。1.及び2.については、株主(の多数)が旧経営陣の責任を免除することに同意することは、この社会的状況を踏まえると、まず考えられない。したがって、今回の検討から外しても問題ないだろう。次に、4.については、会社法は、会社との間で責任限定契約を締結することができる者を社外取締役等の業務を執行しない取締役等に限定している。旧経営陣は業務を執行する立場にあったと考えられるので、この線もまずないと考えられるだろう。

したがって、残りの3.5.及び6.が現実的な選択肢になると考えられる。明日以降はそれぞれの選択肢について一つ一つを検討していきたい。

今日はこんなところで。。

なお、取締役の責任について検討においては以下の書籍がお勧め。さすが中村先生という感じですよね。

[http://:title]

 

なお、続きはこちらから:

 

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開示資料から考えるツイッター社買収合意の解除の可否③

以下の昨日のエントリーからの続き。今日は少しだけここまでの議論をまとめてみたいと思う。

 

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さて、以上の分析からすると、仮にツイッター社がスパムアカウント等の情報をマスク氏に提供していないとすると、実は法律論的にはマスク氏の主張の方が通りやすいように思われる。しかし、そうだとしても、マスク氏が本契約に違反しているのであれば形勢逆転。ツイッター社はマスク氏による解除を免れるだけでなく、(i)マスク氏に本契約の履行を迫るか(報道ではツイッター社が契約の履行を主張しているとあったが、ここまで関係が悪化しているにも関わらず、このディールを進めたいのか謎ではある。。)、または、(ii)自ら解除してリバース・ブレークアップ・フィーとして$1,000,000,000を請求することができるのだ。

日本ではこのような大規模M&Aが大きな訴訟に発展することは少ないが(あっても株式買取請求がほとんどとの理解。もしかしたら大手法律事務所や外資系事務所が寡占しており、私のような企業法務の端くれには依頼されていないだけかもしれないが。。苦笑)、アメリカではこのような訴訟が多発している(私の留学時代の恩師の話によると、大規模M&Aには訴訟が付き物とのこと。なお、これがアメリカのリーガルマーケットを支えており、米国系事務所が強い理由でもあるそうな。)。このような法廷闘争がアメリカにおけるM&Aに関連する法律の発展の土台となっているのだろう。日本ではアメリカに比してM&Aに関連する判例は少ないと言わざるを得ない。裁判例が積みあがれば、M&Aに更なる法的安定性がもたらされ、M&A市場が活性化するという楽観的な見方ができる。しかし、他方で、仮に日本でこのような訴訟が多発するとなると、M&Aに対する消極的な態度を生み、逆に日本のM&Aの発展を阻害するという効果もあるように思う。アメリカでは訴訟ありきでも多くのM&Aが実行されていおり、法的側面からすると丁度いいバランスが保たれているのかもしれない。

今回の件もまた判例集に乗るような大きなケースになるだろう。片田舎の一弁護士として、本件の帰趨を興味深く見守っていたい。

開示資料から考えるツイッター社買収合意の解除の可否②

今日は毎日の以下のエントリーの続きを書きたい。

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情報提供義務違反で争うのが難しい場合、ツイッター社のさらなる防御を考えられないだろうか。一つ考えられるのが、契約違反はあるが、解除事由には該当しないという主張だ。本解約通知では第8.1(d)(i)項に基づく解除を主張しているので、その条項も見てみよう。

"Section 8.1 Termination. Notwithstanding anything contained in this Agreement to the contrary, this Agreement may be terminated at any time prior to the Effective Time, whether before or after the Company Stockholder Approval is obtained (except as otherwise expressly noted), as follows:

(d) by Parent:

(i) if the Company shall have breached or failed to perform any of its representations, warranties, covenants or other agreements set forth in this Agreement, which breach or failure to perform (A) would give rise to the failure of any condition set forth in Section 7.2(a) [i.e., (a) the Company shall have performed or complied, in all material respects, with its obligations required under this Agreement to be performed or complied with by the Company on or prior to the Closing Date;] or Section 7.2(b), and (B) is not capable of being cured, or is not cured, by the Company on or before the earlier of (x) the Termination Date and (y) the date that is thirty (30) calendar days following Parent’s delivery of written notice to the Company of such breach"

"第 8.1 項 解除。本契約のいかなる規定にもかかわらず、本契約は、会社株主の承認取得の前後を問わず、発効時以前であればいつでも、以下のとおり終了することができる(ただし、特に明示的に記載された場合を除く)。

(d) 親会社による場合

(i) 当社が、本契約に定める表明、保証、誓約またはその他の合意のいずれかに違反し、または履行を怠り、その違反または履行怠りにより、 (A) 7.2(a) 項に定める条件[すなわち、(a) 当社が、すべての重要な点において、本契約の下で当社が履行または遵守することを要求される義務を、クロージング日またはそれ以前に履行または遵守していること、] または第 7.2(b)項に定める条件の不履行を生じさせること。 但し、親会社は、本条(d)(i)に従い本契約を終了させる権利を有しないものとします。www.DeepL.com/Translator(無料版)で翻訳"

この解約の条項を見ると、契約違反をした場合即解約することができる、というものではなく、「重要な点において」契約を遵守したとは言えない場合、解約することができるという建付けになっている(上記の条項の(A)参照)。したがって、ツイッター社が情報提供義務を履行していない場合でも、「重要な点において」は履行しているという状況であれば、解除は回避できる。これも①事実の問題(どの程度マスク氏にスパムアカウント等の情報を提供したのか)と②法律解釈の問題(スパムアカウント等の情報提供が不十分だとして、それが「重要な点」において契約を履行していない、といえるのか)に分けられるだろう。今回も①の主張は現段階でははっきりしていないため、検討は捨象する。問題は②に該当するかであるが、仮にスパムアカウント等の情報が第6.4項の情報提供義務に含まれるのであれば、その情報を提供しないことが「重要な点」において契約を履行していない、と主張することは難しいだろう。なぜなら、スパムアカウント等の情報が第6.4項の情報提供義務に含まれるということはスパムアカウント等の情報が本取引の実行・完了に必要な情報であることを意味しており、そのような取引の実行・完了に必要な情報を開示しないのは大きな問題といえるからである。

しかし、ツイッター社の最後の砦として、第8.1(d)(i)項の但書きの適用を主張することが考えられる。

"providedhowever, that Parent shall not have the right to terminate this Agreement pursuant to this Section 8.1(d)(i) if Parent, Acquisition Sub or the Equity Investor is then in material breach of any of its representations, warranties, covenants or agreements hereunder; "

"但し、親会社は、本条(d)(i)に従い本契約を終了させる権利を有しないものとします。 但し、親会社は、親会社、孫会社又は株式投資家が本契約に基づく表明、保証、誓約又は合意のいずれかに重大な違反をした場合には、本第8条(d)(i)に従って本契約を終了させる権利を有しないものとします。www.DeepL.com/Translator(無料版)で翻訳。"

報道によると、ツイッター社はマスク氏が本契約において様々な契約違反を犯していると主張しているようだ。この詳しい内容は、EDGARにも開示されていないかったため、把握できていないが、仮にツイッター社の主張が正しい場合、上記の但書きの適用によりツイッター社はマスク氏による解除を免れる。

さらに、ツイッター社の主張が正しい場合、ツイッター社は以下の条文に基づき更なる反撃が可能である。

"Section 8.3 Termination Fee.

(b) In the event that:

(i) the Agreement is terminated by the Company pursuant to Section 8.1(c)(i); [...]

Parent shall no later than two (2) Business Days after the date of such termination, pay, or cause to be paid, by wire transfer of immediately available funds, at the direction of the Company, the Parent Termination Fee [(i.e., $1,000,000,000)]; it being understood that in no event shall Parent be required to pay the Parent Termination Fee on more than one occasion."

"第 8.3 項 解約金。

(b) 以下の場合。

(i) 第8.1項(c)(i)に従って本契約が会社によって終了する場合。[...]

親会社は、当該終了の日から2営業日以内に、会社の指示により、直ちに利用可能な資金を電信送金することにより、親契約終了料[(すなわち、$1,000,000,000)]を支払うか、支払わせるものとします。www.DeepL.com/Translator(無料版)で翻訳。"

この条項に引用されている第8.1(c)(i)項とは、マスク氏が本契約の「重要な点」において履行しなかった場合においてツイッター社が解除した場合を指している。すなわち、ツイッター社が、マスク氏の本契約違反を理由に本契約を解除した場合、ツイッター社はマスク氏に対してリバース・ブレークアップ・フィーとして$1,000,000,000(日本円にして138,610,000,000円!)を支払うよう請求できるのだ。

最後はツイッター社の反撃にまで及んだが、マスク氏による本契約の解約の可否の主要な論点は以上のとおりではないか。ここからは、これまでの議論を簡単にまとめたいが、力尽きたので、また明日。

開示資料から考えるツイッター社買収合意の解除の可否①

イーロン・マスク氏のツイッター買収提案の撤回が話題を呼んでいる。

マスク氏とツイッター社は、今年の4月25日、マスク氏によるツイッター社買収に合意していたが、報道によると、マスク氏はこの合意の撤回(解除)をツイッター社に通知したとのことだ。今回のエントリーではこの解除について検討してみたい。

まず前提として、アメリカの上場会社の買収案件の資料は、その多くがEDGAR(日本でいうEDINETのようなサイト)というシステムで開示されている。今回のマスク氏によるツイッター社の買収についても事細かに開示されており、EDGARでツイッター社を検索すると本買収に関連して提出された書類を一覧できる。これにはマスク氏とツイッター社が締結した契約(「本契約」)だけでなく、マスク氏がツイッター社に対して送付した解約通知(「本解約通知」)も含まれている。筆者は開示された資料の全てを確認したわけではないが、本契約、本解約通知、それと報道されている情報を総合して本契約の解約について検討してみたい。

関心がある読者がいるかもしれないので、以下に本契約及び本解約通知の原文のリンクも紹介しておく:

本契約はこちら

 

www.sec.gov

 

本解約通知はこちら:

 

www.sec.gov

 

まずはマスク氏がツイッター社に提出した解約通知を見てみよう。本解約通知を見ると、報道のとおり、ツイッター社がフェイクアカウントやスパムアカウントの情報を開示しないことが本契約第6.4項に違反することを主な理由(そのほかにも情報の正確性に関する表明保障違反等も主張しているが、これは付随的な主張となっているので、今回の検討からは捨象したい。)として、本契約の解除を主張している。その一部を引用すると以下のとおりである(一部の下線は筆者にて追加。以下引用部分について同じ。)。

"While Section 6.4 of the Merger Agreement requires Twitter to provide Mr. Musk and his advisors all data and information that Mr. Musk requests “for any reasonable business purpose related to the consummation of the transaction,” Twitter has not complied with its contractual obligations. For nearly two months, Mr. Musk has sought the data and information necessary to “make an independent assessment of the prevalence of fake or spam accounts on Twitter’s platform” (our letter to you dated May 25, 2022 (the “May 25 Letter”)). This information is fundamental to Twitter’s business and financial performance and is necessary to consummate the transactions contemplated by the Merger Agreement because it is needed to ensure Twitter’s satisfaction of the conditions to closing, to facilitate Mr. Musk’s financing and financial planning for the transaction, and to engage in transition planning for the business. Twitter has failed or refused to provide this information. Sometimes Twitter has ignored Mr. Musk’s requests, sometimes it has rejected them for reasons that appear to be unjustified, and sometimes it has claimed to comply while giving Mr. Musk incomplete or unusable information."

"合併契約第6.4条は、Twitterがマスク氏とそのアドバイザーに対して、マスク氏が「取引の完了に関連する合理的な事業目的のために」要求するすべてのデータと情報を提供することを求めていますが、Twitterはその契約上の義務を遵守していません。マスク氏は2カ月近く、「ツイッターのプラットフォームにおける偽アカウントやスパムアカウントの普及について独自の評価を行う」ために必要なデータと情報を求めてきました(2022年5月25日付けの弊社書簡(以下、「5月25日書簡」))。この情報はTwitterの事業と財務実績にとって基本的なものであり、Twitterが完了条件を確実に満たし、マスク氏の資金調達と取引の財務計画を促進し、事業の移行計画に従事するために必要なため、合併契約によって意図された取引を完了させるために必要なものです。Twitterはこの情報を提供しなかったり、拒否したりしました。Twitterは、マスク氏の要求を無視することもあれば、不当と思われる理由で拒否することもあり、また、マスク氏に不完全または使用不可能な情報を与えながら、要求に応じると主張することもありました。www.DeepL.com/Translator(無料版)で翻訳。"

次に、本解約通知で問題になっている本契約の6.4条を見てみたい。少し長いが以下にその内容を抜粋する。

"Upon reasonable notice, the Company shall (and shall cause each of its Subsidiaries to) afford to the representatives, officers, directors, employees, agents, attorneys, accountants and financial advisors (“Representatives”) of Parent reasonable access (at Parent’s sole cost and expense) [...] to the properties, books and records of the Company and its Subsidiaries and, during such period, shall (and shall cause each of its Subsidiaries to) furnish promptly to such Representatives all information concerning the business, properties and personnel of the Company and its Subsidiaries as may reasonably be requested in writing, in each case, for any reasonable business purpose related to the consummation of the transactions contemplated by this Agreement

"当社は、合理的な通知の上、親会社の代表者、役員、取締役、従業員、代理人、弁護士、会計士および財務アドバイザー(以下「代表者」という)に対し、当社および子会社の財産、帳簿および記録に(親会社の費用と負担で)合理的にアクセスする権利を与えるものとします。 また、当社および子会社の事業、財産および人事に関して、本契約で意図された取引の実行に関連する合理的な業務目的のために、書面により合理的に要求されるすべての情報を、当該期間中、当該代表者に速やかに提供するものとします(各子会社にもそうさせるものとします)。www.DeepL.com/Translator(無料版)で翻訳"

さて、これを前提にどのような主張・反論が考えられるだろうか。本解約通知によると、マスク氏は、スパムアカウント等の情報がfor any reasonable business purpose related to the consummation of the transactions contemplated by this Agreement(本契約で意図された取引の実行に関連する合理的な業務目的のため)に合理的に必要な情報であると主張していることが分かる。これに対して考えられるツイッター社の反論は、①事実の問題として、既に必要な情報は提供している、又は②契約の文言解釈の問題として、スパムアカウント等の情報はfor any reasonable business purpose related to the consummation of the transactions contemplated by this Agreement(本契約で意図された取引の実行に関連する合理的な業務目的のため)に必要な情報ではない、と反論することが考えられる。

①については、事実の評価の問題であり、十分な情報が開示されていないので筆者の立場からは評価することは難しい。では、②についてはどうか?まず" for any reasonable business purpose related to the consummation of the transactions contemplated by this Agreement(本契約で意図された取引の実行に関連する合理的な業務目的のため)"という文言が不明瞭であり、その外苑がはっきりしない印象を受ける。この文言は、多くの情報を請求できるようにしたい、しかし、契約締結時点ではどのような情報が必要か分からないからなるべく多くの情報が請求できるようにと、マスク氏の弁護士が用意した文言なのであろう。さて、マスク氏としてはツイッター社の利用人数はツイッター社の事業にとって極めて重要であるので上記の目的のために必要だ、といった主張をすることが考えられる。しかし、ツイッター社としては、この条項は取引の「完了・実行(consummation)」にために必要な情報を提供することを約束するものであり、それは典型的には当局に対する届出等に必要な情報を意味する。スパムアカウント等の情報が取引の「完了・実行(consummation)」に必要であれば、マスク氏は契約締結時にそれを特定すべきであったにもかかわらず情報開示に関するこの条項だけでなく、本契約の他の条項においてもそのような情報を特定していない。したがって、取引の「完了・実行(consummation)」のためにスパムアカウント等の情報は必要ではない、というような主張が考えられるだろうか。少しツイッター社に旗色が悪い主張であるが、いずれせよスパムアカウント等の情報が6.4条で提供が義務付けられる情報ではない、という主張が(事実に関する主張以外では)最初の防波堤になるだろう。

さらに、ツイッター社は、上記の主張に加えて、以下の第6.4項但書きに基づく反論をすることが考えられる。

"providedhowever, that nothing herein shall require the Company or any of its Subsidiaries to disclose any information to Parent or Acquisition Sub if such disclosure would, in the reasonable judgment of the Company, (i) cause significant competitive harm to the Company or its Subsidiaries if the transactions contemplated by this Agreement are not consummated, (ii) violate applicable Law or the provisions of any agreement to which the Company or any of its Subsidiaries is a party, or (iii) jeopardize any attorney-client or other legal privilege. "

"ただし、本契約のいかなる規定も、当社またはその子会社が、親会社または Acquisition Sub に対して情報を開示することが、(i) 本契約が意図する取引が完了しない場合に当社またはその子会社に著しい競争上の損害を与える、(ii) 適用法令または当社またはその子会社が当事者である契約の規定に違反する、または (iii) 弁護士・依頼人・その他の法的特権が危険にさらされると当社の合理的判断により判断された場合には、開示を要求しないものとします。www.DeepL.com/Translator(無料版)で翻訳"

但書きとして、ツイッター社が情報提供義務が免除される場合が3つ規定されている。この中の最有力候補は(i)の適用であろう。すなわち、ツイッター社は、スパムアカウント等の情報を開示することは本契約が意図する取引が実行されなかった場合にツイッター社に著しい競争上の損害を与える、という主張である。しかし、実はこの主張も旗色が悪い。なぜなら、ツイッター社はスパムアカウント等の情報をこれまでに公表しているため、マスク氏に対してのみその数を開示することがツイッター社に"significant competitive harm "を与えると主張するのは難しいのだ。

こう見ると、(マスク氏が主張しているとおり本当にスパムアカウント等の情報を提供していないのであれば)契約違反か否かと言われるとツイッター社の反論が実は強くはないことが分かる。では、さらなる反論は考えられないか?これについては明日以降に更に検討することにしたい。続く。