ビジネスロー・ダイアリー

中年弁護士の独り言兼備忘録

乱文:ChatGPTと弁護士業務

X社に勤める3年目の法務部員Aは、出勤してパソコンを立ち上げると、営業部のBからY社との間でX社の製品に関する売買契約を締結したい旨のメールが来ていた。どうやら今回の売買契約は、継続的な契約であり、また、売買価格も固定額ではなく、原料甲の価格に2割を上乗せした価格になっているようだ。X社には単発かつ固定額の取引しか実績がない。しかし、Aに焦りの色は見えない。X社用にカスタマイズしたChatGPTにドラフトをお願いすれば、5分とかからず正確なドラフトがあがってくるのだ。後はそれを確認し、修正が必要なところを修正してBに送ればいいだけだ。ChatGPTに売買契約の作成の依頼をしたとろころ、今度は広報のCからX社の社員がSNSで炎上しているので法的な問題点及び対応策のベストプラクティスを教えて欲しいとの連絡がきた。X社で社員が炎上するのは初めてだ。しかし、ここでもAに焦りの色は見えない。ChatGPTに聞けば答えはすぐ返ってくるからだ。あとは返ってきた答えを確認し、法律用語をCにも分かるように直したうえで、回答してあげればいいだけだ。

 

これが5年から10年後の(上場企業の)法務部の一般的な姿であろう。このような世界観になったときに弁護士は必要なのだろうか。私としては弁護士が必要と考えているが、理由は以下のとおりだ。

 

まず第一の問題として、ChatGPTの回答の正確性を担保する必要があるからだ。今のChatGPTを使うと分かるとおり(また、存在しない論文が引用されていたという声が聞こえてくるとおり)、ChatGPTはかなりの精度を誇っているものの、まだまだ完璧とは程遠い。ChatGPTの回答はとっかかりとしては大きな意味を持つが、その回答の正確性を担保するため弁護士に確認する必要があるだろう。

 

また、ChatGPTの技術面に詳しくないが、これまでのDeep Learningの延長線上の技術を使っているのであれば、推論は苦手であるはずである。したがって、「あるある」の問題(個社にとっての「あるある」ではなく、世間一般にとっての「あるある」)を解決するには大いに力を発揮するが、未知の問題、学説・判例ともに固まっていない問題については人間の能力の方が高いはずである。今日の弁護士業務を見ても、上場企業からの質問の多くはいわゆる未知の問題であり、「答え」が明らかな問題は少ない。上場企業からすると、「あるある」の問題は社内のリソース(社内弁護士を含む)を使って解決できているのであり、わざわざ外部の専門家を使う必要がないからだろう。

 

このことからもChatGPTが弁護士の仕事を「奪う」ということはない(あるとしてもその範囲は限定的)だろう。他方で、ChatGPTは法務部の仕事を「奪う」かもしれない。法務部が日常的にしている「あるある」の仕事の多くは、ChatGPTにより代替される可能性が高いからだ。

 

かといって弁護士業が安泰化というとそうでもない。

 

ここからは今よりさらに依頼者の弁護士を見る目が厳しくなるだろう。ChatGPTが依頼者と弁護士の情報格差をこれまで以上に埋めるからだ。依頼者は主要な論点、条文、関連する裁判例、これらの情報に瞬時にアクセスできるようになる。したがって、これらの情報を知っていることは無価値になり、それらの情報をいかに事案に当てはめ、分析できるか、これが弁護士の腕の見せ所になるだろう。

 

このことはインターネットが世間に普及されていたことから言われていたことだ。しかし、今日に至っても想像以上に依頼者と弁護士の情報格差は埋まっていない。これにはいくつも理由があると思うが、一つは検索自体に技術が必要であり、必要な情報に辿りつけないことがあるだろう。しかし、ChatGPTではそのような技術は必要ない。誰でも使える「更問」を繰り返せば、簡単に本当に必要な情報にたどり着くことができるのだ。

 

また、タイムチャージで稼ぐビジネスモデルではこれまでのような成長はできないだろう。弁護士業務で最も時間を使うのはリサーチとドラフトであるが、これらはいずれもある程度はChatGPTで代替することができる。弁護士が業務に必要な時間は大幅に削減されるはずだ。

 

例えば、上記であげたSNSでの炎上の法的問題とベストプラクティスを調べようとしたら、法的問題を調べるのに2-4時間、ベストプラクティスを調べるのに同じく2-4時間くらいは平気でかかるだろう。全体で10時間弱の稼働になり、1時間2万円のタイムチャージであれば20万円だ。これがChatGPTに聞いて、その裏どりをするだけなので、3分の1又はそれ以下の時間で解決できるだろう。

 

楽観シナリオも考えられる。誰もがChatGPTで法的問題を発見することはできるので、弁護士の相談が増えるというものだ。しかし、わざわざ弁護士に聞く人が増えるとはあまり考えられないだろう。したがって、タイムチャージで稼いでいるいわゆる企業法務系の弁護士事務所は、タイムチャージ制を維持する限り、これまでのように売上を伸ばすことは難しいだろう。

 

では、このような事務所の次の一手は何であろうか?私個人としては、単価をあげるかしかないと思う。逆に我々の付加価値を積極的にアピールする(すなわち単価をあげる)いいチャンスと捉えることもできる。依頼者と弁護士の情報格差がなくなり、ChatGPTの回答という一つの基準ができるため、依頼者も弁護士の能力をより客観的に評価できるようになるだろう。素晴らしいサービスであるChatGPTを超えるアドバイスをすれば、依頼者はいかに有用なアドバイスを受けているかより強く実感し、単価が高くとも喜んで支払っていただけるのではないか?私個人としては、法律事務所の単価は、ビジネスコンサルの1時間の単価くらいまであげてもいいのではないかと思っている、

 

上記のようなサービスを提供するため、我々弁護士の日々の研鑽は欠かせないだろう。しかし、それは従前のような知識を得る形の研鑽では不十分かもしれない。常に未知の問題にチャレンジし、自分なりの答えを見つけるのが何よりも重要だ。この能力は本を読んでも身につかない。となると、日々の1件1件の案件を大切にする、という使いつくされたつまらない教えが重要なのではないか、とここまで書いて、一周回って気づかされたような気がする。

はー弁護士業務って研鑽ばっかりで辛いっすね笑

 

 

Rights of first offer? Rights of first refusal?

新年の抱負

久しぶりの投稿になってしまった。忙しくてブログから少し遠ざかると、すぐにブログを書く習慣がなくなってしまう。今年は月一(願わくば月二)でM&A関連トピック、法務トピック又はその他の雑トピックを書いていきたいと思う。

今回何を書くか迷った挙句、あまりいい話題が見つからなかったものの、先日久しぶりに株主間契約をドラフトする機会に恵まれたので、株主間契約絡みの話題、特に紛らわしいRights Of First Offer(ROFO)とRights Of First Refusal(ROFR)について書いていきたいと思う。

前提

株主間契約はある会社の株主の間で締結されるもので、主に合弁会社、共同投資の場合に用いられる。その内容は、株主間契約を締結する場面により異なるものの、当事者が保有する株式の処分方法については多くの株主間契約で規定されている。株主間契約が締結されるような場面では、株主が変更されることは想定されていないが、仮に株主が変更した場合、株主間の関係だけでなく、発行会社の運営等にも影響する。このように株主の変更は合弁会社の運営等にも影響を及ぼす重要な事象であることから、保有する株式の処分については、多くの株主間契約で規定されているのであろう。保有する株式の処分に関するルールの一つが冒頭で紹介したROFOとROFRだ。

例えば、AとBがそれぞれ51対49の割合で合弁会社Xを設立した場合を考えて欲しい(=X社の株式の保有割合はA51:B49)。合弁設立後、数年間はXの成長に尽力していたものの、Xの運営方針の違い又は財務状況等から、Bが保有する株式を処分する場合を考えてみよう。Aからすると、Bが見ず知らずの第三者CにX社の株式を売却してしまった場合、AはCとX社を運営することになってしまい、当初の想定と異なりいくつもの不都合が生じる可能性がある。このような状況を回避するために、Aが行使できる権利がROFOとROFRだ。

ROFOとROFR

ROFOは、その名の通り、先行してOfferをする権利である。上記の例を用いると、BがCにX社の株式を売却しようとした場合、まずはAに対してお伺いを立て、Aに株式購入のofferをする機会を与える必要がある。この場合、AがofferをするかどうかはAの裁量であり、Aはofferをしないこともできる。

ROFRは、refusalをする権利であるが、その語感からはどのような内容か少しイメージがしにくいと思う。上記の例を用いて説明すると、BがCにX社の株式を売却しようと考えた場合、BはまずはCとの間で売却条件を詰める。その後、Aに対して、「Cと決めた条件」でBからX社の株式を購入するかお伺いをたてる必要がある。このように実際にはAがCに優先して(BC間で詰めた条件で)X社の株式を購入できることから、日本語では先買権と呼ばれている。

ROFOとROFRの違い

上記の説明だけではROFOとROFRの違いについて今一ピンと来ていないと思う(かく言う私もそうだ)。そこで、もう少しこの違いについて説明させてもらいたい。

ROFOの場合、BはCと交渉を始める前にAにお伺いを立てればよいため、Aに興味がなければ、BはCとの間で株式の売却交渉ができる。Bからすれば、まずはAと交渉する必要があるという一定のハードルがあるものの、その手続きを踏みさえすればCに売却することは可能である。

しかし、ROFRの場合、Cとの交渉が先行する。したがって、Aが株式を購入することになった場合、BC間の交渉は水泡に帰してしまうし、Cの立場からすると、Bと交渉したとしても結局Aに買われてしまう可能性があるので、そもそもBと交渉したいとは思わないだろう。したがって、ROFRは、ROFOに比して、そもそも売却候補相手が見つけるのが困難という側面があるため、売却のハードルが実務上相当程度高くなると考えてよい。

このことから、ROFOは譲渡希望株主(B)有利の条項で、ROFRは残存株主(A)有利の条項と言われている。

まとめ

名前と機能が似ているだけに混同されがちの両者であるが、株式譲渡のハードルという面では大きく異なる。将来自らが株式を譲渡する可能性の大小を見据えて、いずれの条項を選択するか検討すべきであろう。

インターネットの世界では株式譲渡に関する条項の解説はあふれているものの、株主間契約に関する条項の解説は未だ十分ではないと思うので、これから少しずつ株主間契約における条項の解説をしていきたいと思う。

オイシックスによるシダックスに対する異例な公開買付け③ - コロワイドによるフード関連事業の買収提案

はじめに

シダックスの件で新たに続報が出ましたので今日は少しだけこの件について書きたい。これまでのシダックスの件のエントリーはこちらから。

 

businesslaw-diary.com

 

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日経の記事:コロワイドによる買収提案

まずは日経の記事*1。これによると、シダックスの意見表明報告書で言及されていたアライアンス候補がコロワイドであったことが判明し、コロワイドが6日に改めてシダックスのフード関連事業の買収提案をしたようだ。

www.nikkei.com

この件のインプリケーションとしては、シダックスの取締役からすると、オイシックスとコロワイドのいずれかを比較検討をする必要性が高まり、おいそれとオイシックスの提案に賛成できないことが明らかになったということだろう。昨日の反対意見の裏付けができ、説得力が高まった、ということだ。

また、ユニゾンからすると、コロワイドの買収提案がインサイダー情報に該当する可能性がある、との主張が一定程度根拠づけられることになる。すなわち、オイシックスはコロワイドの買収提案はインサイダー情報に該当しないと主張していたが、その最大の理由はコロワイドの買収提案が既に撤回等されたものである、ということだ。今回のコロワイドの買収提案により、コロワイドの買収提案は撤回等がされていない現在も有効なものであることが根拠づけられた。そうだとしても、コロワイドの買収提案がそもそもインサイダー情報に該当するかは疑義があると私自身は考えているところであり、ユニゾンの旗色が悪いことには変わらないように思う。詳細は前回のエントリーを参照されたい。

ユニゾンによる応募方針の公表

また、9月6日、ユニゾンもオイシックスによる公開買付けの応募方針について明らかにした。内容としては、インサイダー取引規制違反のおそれがなくなること及びシダックスが賛同意見表明することの条件が揃わなければ応募しないというもので、これまでの開示資料から明らかにされていたことを自らの口で繰り返したこととなる。

www.unisoncap.com

この公表の真の意図は分からないが、外野から見ると少し悪手なようにも見える。なぜなら、創業家からユニゾンに対する保全の訴えが提起されるリスク、そして、その保全の訴えが認められるリスクが一定程度高まったと思えるからだ。すなわち、裁判において、将来の不利益に対する救済を求めるためには、将来の不利益が生じる蓋然性が高いことを証明する必要がある。仮に、ユニゾンが戦略的に曖昧な態度をとり続けていた場合、ユニゾンが応募するか否かは公開買付期間の終了まで待たないと分からず、創業家としても保全の訴えを提起するかは悩ましいところだっただろう。しかし、今回のように、オイシックスが反対意見を表明した後、ユニゾンが自らの口でシダックスが賛同しなければ応募しないことを明示してしまうと、ユニゾンが株式を売却しない可能性が相当程度高い(なお、理論上はシダックスが意見を変える可能性がる)ため、創業家としても保全の訴えを起こしやすく、また、保全の訴えを起こした場合に認められる可能性が高まっているといえるのではないか。なお、ユニゾンの方針は既に別の開示資料から読み取れるところであり、実際にユニゾンの開示がどこまで裁判に影響を与えるかは分からないが、創業家の心理上及び裁判上不利に働く可能性があるのは間違いがなく、あえてこのような公表をする必要があったかは疑問が残るところだ。

シダックスの反応

これに対して、現時点ではシダックスは何も反応していない。前回のエントリーで説明したとおい、シダックスからコロワイドから買収提案があったとの内容を開示してしまうと、この情報がインサイダー情報の対象から外れてしまうので、この件の詳細を開示することはないように思われる。

今後の見通し

前回のエントリーに比してさらに創業家がユニゾンに対して訴訟を提起する可能性が高まったのではないか。人間味あふれる泥試合になってきたが、今後の展開に注目したい。

*1:本論と外れので脚注にしておくが、、この日経の記事はどうなのであろうか。。率直に言って論旨が不明確かつ不正確である。これならよっぽど有名ツイッタラーの解説の方が有益ではないか。

オイシックスによるシダックスに対する異例な公開買付け② - シダックスの反対意見表明

はじめに

私の予想は見事に外れ(笑)、シダックスはオイシックスからの公開買付けに対して反対の意見を表明した。反対意見を読むと新たに判明する事実も多く、また、法的に中々におもしろくなってきたので、今日はこの件について少し書いてみたい。

https://www.shidax.co.jp/cms/wp-content/uploads/2022/09/%E3%82%AA%E3%82%A4%E3%82%B7%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%83%A9%E3%83%BB%E5%A4%A7%E5%9C%B0%E6%A0%AA%E5%BC%8F%E4%BC%9A%E7%A4%BE%E3%81%AB%E3%82%88%E3%82%8B%E5%BD%93%E7%A4%BE%E6%A0%AA%E5%BC%8F%E3%81%AB%E5%AF%BE%E3%81%99%E3%82%8B%E5%85%AC%E9%96%8B%E8%B2%B7%E4%BB%98%E3%81%91%E3%81%AB%E9%96%A2%E3%81%99%E3%82%8B%E6%84%8F%E8%A6%8B%E8%A1%A8%E6%98%8E%EF%BC%88%E5%8F%8D%E5%AF%BE%EF%BC%89%E3%81%AE%E3%81%8A%E7%9F%A5%E3%82%89%E3%81%9B.pdf

本件に関する過去のエントリーはこちらから

 

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反対意見で判明した新たな事実を踏まえた本件の経緯

反対意見で判明した新たな重要な事実を踏まえると、本件は大要以下のような事実経緯を辿っているいるようだ。

・2021年3月下旬から、シダックスは、オイシックスとの間で、オイシックスとの間での業務提携を模索し、交渉していた。オイシックスとは全面的な業務提携も検討していたが、2022年4月下旬から5月下旬で行われた交渉を踏まえ、シダックスのフード関連事業の買収という方向でまとまり、オイシックスは当該事業のデュー・ディリジェンスも行っていた(なお、このデュー・ディリジェンスは本覚書が締結された6月下旬ころに中断されている)。

・同時期、シダックスは、別の提携先候補(「アライアンス候補A」)とも業務提携について交渉しており、並行してアライアンス候補Aともフード関連事業の売却について協議していた。また、時期は不明であるが、別の1社(「アライアンス候補B」)ともフード関連事業の売却について協議していた。

・同年6月27日、シダックス創業家は、オイシックスとの間で覚書(「本覚書」)を締結し、ユニゾンとの株主間契約に基づき、オイシックスを譲受人としてユニゾンの保有する株式を売却するように請求すること及びオイシックスと業務提携契約を締結するよう最大限努力すること等を約束した。また、同日、ユニゾンに対して売却請求権を行使した。

・同年6月30日、シダックスは、アライアンス候補Aから、シダックスの時価総額(313億円)を相当程度超える金額でフード関連事業を買収する初期的提案を受けた。

・同年7月初旬、オイシックスはシダックスに対して公開買付けを実施する意向であることを伝えた。

・同年8月19日の取締役会において、創業家かつシダックスの代表取締役である志太勤一氏がオイシックス以外の協業提案は撤回され、又は真摯な提案ではないことが判明したと報告した(※)。

(※)重要な認識の相違だと考えられるが、シダックスは、かかる撤回等を行ったのはアライアンス候補Bのみであり、アライアンス候補Aによる提案は撤回等はされていないと主張している。

・2022年8月30日、オイシックスがユニゾンが保有する株式の取得を目的として公開買付け(「本公開買付け」)を開始した。

 

以上が双方当事者に争いがない事実と思われる(正確にはアライアンス候補Aの提案タイミングや提案額についてのオイシックス側の認識は不明であるが、この点はオイシックス側も争ってこないと考えられる)。これを見ると、創業家はオイシックスとくっつきたかったため、ユニゾンを追い出すために、オイシックスを使って本公開買付けを実施したのでは?と邪推したくなってしまう

シダックス取締役の反対理由

シダックス取締役の本公開買付けの反対理由は以下のとおりだ。これは反対意見表明で非常に明快に述べられている(余談であるが、反対意見表明のできは素晴らしいなと思った。論旨が明確であるし、文章も読みやすい。難癖をつけるのであれば個人的には①B.に関連して、本公開買付けは少数株主の利益に反するという点をもう少し協調してもよいと思ったが、この状況ではそこまで言い切れないと判断したのかもしれない)。

① 本公開買付けが成立した場合、フード関連事業の協業に係る公正な検討が妨げられ、本来得られるはずであった利益を当社が失う結果となるおそれがあること

 A本公開買付けの後に予定されている公開買付者と当社のフード関連事業に係る業務 提携が当 社の企業価値を向上させるものであるかの検討が、本公開買付けに先んじて必要であること

 B 当社が希望するフード関連事業の協業先に係る比較検討が未了であり、また、本公開買付け後 にかかる比較検討を実効的に行うことが困難と見込まれること

② 本公開買付けは株主の皆様の利益を害するおそれがあること(反対理由②)

A アライアンス提案が具体化する前に本公開買付けに応募した株主の皆様の利益が害されるお それがあること

B 本公開買付けにおける当社株式の取得価格は、直近の当社株式の市場価格からディスカウン トされていること

上記の理由付けについてそれぞれ簡単にコメントをしたい。

①A.について

①A.については、オイシックスの公開買付けの真の目的はフード関連事業の子会社の株式の取得であり、そうであるならば、アライアンス候補Aの提案との比較検討が必要であると主張している。これは取締役の善管注意義務に関係する大変おもしろい問題だ。

米国では、買収の状況において、被買収会社の取締役は株主に対する義務として、当該被買収会社(対象会社)をなるべく高い価格で売却する義務を負っていると考えられている(いわゆるレブロン基準)。したがって、買収提案を受けた後、対抗提案が出てきた場合、特段の理由なく、買収金額が低い方に会社を売ってしまうと、被買収会社の取締役は(旧)株主に対して損害賠償をする必要が生じる。日本においては、少なくとも現段階ではここまでの義務は裁判例上認められておらず、また、ここまでの義務は負担していないと考えるのが実務的な感覚であるが、敵対的TOBが増加している昨今では、この議論が改めて注目されている。①A.の理由付けはこれを意識したものであろう。

すなわち、仮に本公開買付けの真の目的がフード関連事業の子会社の取得であれば、アライアンス候補Aの提案を無視して、本公開買付けに賛同することは上記の取締役の義務に反する可能性がある、そのため、まずはアライアンス候補Aの提案との比較がまず必要だと主張しているのであろう。上述のとおり、日本の裁判例では米国のような義務は認められていない。そのため、反対意見ではこのことを意識してか、この点を明示していないが、取締役の善管注意義務を意識してこの主張をしているのだろう。

①B.について

①B.については、創業家が利益相反の状況に置かれていることに焦点が当てられている。すなわち、創業家は本覚書においてオイシックスとの業務提携のための最大限努力する義務を負っている、他方でシダックスの取締役はシダックスの価値を最大化する義務(又はそれに類似する義務)を負っている可能性があり、その場合はアライアンス候補Aを優先すべき場合がある。したがって、創業家かつ取締役は、アライアンス候補Aの提案がオイシックスの提案を上回っている場合、袋小路に陥ってしまうリスクがある。この主張も納得感があるものだ。

②について

②については、想定はされていないが、理論的には一般株主も応募可能であるので、一般株主が応募すべきでない理由を述べている。②A.については、アライアンス候補Aのアライアンス案公表後の方が株式が上昇する可能性があるので、このタイミングで応募すべきでないこと、②B.については、ディスカウントTOBなので応募すべきでないことが述べられている。

まとめ

実際のところは創業家との争いなので反対以外の選択肢はなかったように思うが、反対意見を読んでいると、少しリモートではあるが取締役の義務との関係で反対意見を出す理由も首肯できなくもない。特に主に社外取締役で構成されている取締役会での判断であるため、この点を強く意識することは致し方ないところであろう。

ユニゾンが主張するインサイダー取引の該当可能性

本公開買付けはディスカウントTOBであり、ユニゾンの保有する株式の取得を目的としているので、シダックスと同じくらい又はそれ以上に、重要なのはユニゾンの対応だろう。

ユニゾンとしてはかなり悩ましい立場に置かれていると考えられる。ユニゾンとしてはアライアンス候補Aとの業務提携が望ましいと考えるだろうが、他方で創業家からは株式売却請求を受け、契約上株式売却が義務付けられているリスクがある。さて、この株式売却請求について、ユニゾンは法律的には本公開買付けがインサイダー取引に該当する可能性があること等を理由に反対していた。さて、反対意見を踏まえて、まだこの主張が認められるだろうか。

決定の有無

最初のイシューは、アライアンス候補Aとのアライアンスについて一定の決定があったか否かだ。実務的には、インサイダー情報に該当する事実になるには、機関決定までは必要はないが、実質的には決定に至っていることが必要と考えられている。本件では、アライアンス候補Aからの提案はあくまで法的拘束力のない初期的提案である。提携先をオイシックスにするかアライアンス候補Aにするかで揉めていることからわかるとおり、これについて少なくとも機関決定は行われていないし、実質的な決定がなされているかはかなり疑わしい。したがって、そもそもインサイダー情報に該当するかは相当程度不明確である。

撤回の有無

インサイダー情報に該当するとしても、アライアンス候補Aのアライアンス提案の撤回の有無も問題となる。前回のエントリーでも書いた通り、仮にアライアンス候補Aのアライアンス提案が既に撤回されているのであれば、かかるアライアンス提案はインサイダー情報に該当しなくなる。反対意見によると、アライアンス候補Aのアライアンス提案は撤回はされていない可能性がある。そうであれば、オイシックスの主張が大きく揺らぐのであるが、オイシックスが強気で本公開買付けに踏み切ったことからすると、8月19日の取締役会の議事録ではアライアンス候補Aの提案も撤回等されているような記載ぶりになっているのであろう。現在の開示資料からでは判断しかねるところであり、この点の事実認定は最終的には裁判所の判断に委ねられる。

公表の有無

最後のイシューは「公表」に該当するかだ。インサイダー取引の対象は「未公表」の重要事実であるので、逆に言うと、「公表」すればインサイダー取引の対象にはならない。しかし、この「公表」は法令上一定の形式によるものである必要がある。具体的には、対象となっている上場会社が①報道機関に対して事実を公開した場合、②適時開示をした場合、及び③有価証券届出書、有価証券報告書、臨時報告書等を開示した場合がそれに該当する(金商法166条4項)。今回公表されたシダックスによる意見表明にはアライアンス候補Aとのアライアンスの内容に言及されている。したがって、②の場合に外形的にはあたるのである。

ただし、インサイダー取引の対象から解除されているためには、単にその事実に言及するだけでは足らず、一般投資家の投資判断に影響を及ぼすべき事実の内容がすべて明らかにされる必要があると考えられている。具体的にどこまで書けばよいのか、という点は法令上明らかではないのであるが、反対意見表明では、アライアンス候補Aの具体的な名前も、買収価格も明示されておらず、感覚的にはこれでは必要な情報の開示があったといえないように思える。

小括

上記を踏まえると、裁判所がインサイダー情報に該当するという判断をすれば、「撤回」も「公表」もされていないので、ユニゾンは売却義務を負わないという結論になる可能性がそれなりにありそうだが、そもそもインサイダー情報に該当しないと裁判所が判断する可能性も十分あり、その場合、ユニゾンは契約上は売却義務を負うことになる。

今後の見通し

上記を踏まえると、反対意見を踏まえても、ユニゾンの旗色はよくなく、創業家がユニゾンに対して売却の義務付け、及び/又は損害賠償請求を提起する可能性、かかる訴訟において敗訴する可能性は十分にあると考えられる。したがって、ユニゾンとしては売却するか、かなり悩ましい立場にあると思われるが、シダックスが反対意見を出している以上、売却するという判断をすることはないだろう(ユニゾンは売却請求に応じない理由として、インサイダー情報に該当することに加えて、シダックスが賛成しない公開買付けには応募できないこと、をあげていた)。

したがって、今後の展開としては、創業家はユニゾンに対して訴訟を提起する可能性が高い。創業家がユニゾンに対して売却の義務付けを保全を申し立てた場合、法律的に興味深い論点がいくつかある。

例えば、執行方法だ。創業家が勝訴した場合、もちろんユニゾンが自ら応募することもあり得るが、それをしない場合もある。その場合、どのような形でユニゾンが保有する株式を本公開買付けに強制的に応募させるのかは悩ましい問題がある。マニアックな問題なので詳細は割愛するが、本件は株式譲渡の意思表示+応募行為の2つが必要になるが、特に後者については間接強制以外に手段がなく、間接強制をしてもユニゾンが応募行為をしなかった場合にどのように対処するのか、また、仮に公開買付期間が終了してしまった場合はどうするのか、といった問題が生じるように思う。

他にも公開買付の期間についても検討する必要があるだろう。例えば、保全の裁判期間が公開買付けの開始から60営業日を超えたしまった場合、どのように対処するのか?公開買付届出書の訂正の方法により、公開買付期間が事実上延長するという方法をとるのか、それともいったん辞めるのか、と興味深い論点が尽きない。

終わりに

今回の反対意見により、ユニゾンは応募しない以外の選択肢はなくなっただろう。そうなると、法廷闘争まで発展する可能性がある。本件のきな臭さが強まってきたが、売却の義務付けの法廷闘争になった場合、興味深い論点も山積しているので、今後もこの案件はウォッチしていきたい。

3D Investmentの富士ソフトに対する臨時株主総会の請求に関する法的論点について思いつくままに書く

 

はじめに

最近はどこもかしこも株主アクティビズムが溢れかえっている。直近では、9月1日に、富士ソフトが3D Investment(「3D」)から臨時株主総会の招集請求を受けたとの開示がなされた。この臨時株主総会の目的は社外取締役4名の追加選任のようだ。読者諸兄にどこまでインサイトを与えられるか分からないが、今日はこの株主提案に関する法的論点について思いつくままに筆を進めてみたい。なお、富士ソフトのプレスリリースはこちら。

www.fsi.co.jp

現段階での論点:臨時株主総会の招集請求

まず最初の論点は臨時株主総会の招集請求の可否であろう。会社法上、臨時株主総会の招集請求のハードルは思ったよりも低い。基本的には、議決権の3%以上の議決権を請求の6か月前から保有していれば、株主は臨時株主総会の招集請求をすることができる。もちろん上場会社の議決権を3%以上保有することは個人では到底不可能な金額であるが、機関投資家等であれば十分集められる金額であろう。また、大量保有報告書の提出義務は株券等保有割合が5%以上であることを考えても、この基準が高いとはいえないように思う。

(株主による招集の請求)

第二百九十七条 総株主の議決権の百分の三(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の議決権を六箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き有する株主は、取締役に対し、株主総会の目的である事項(当該株主が議決権を行使することができる事項に限る。)及び招集の理由を示して、株主総会の招集を請求することができる。

 

さて、3Dは当然この条件を満たしており、3Dの臨時株主総会の招集請求が法的に認められない、との判断に至る可能性は低いだろう。これが

今後の論点

考えられる主な法的論点

さて、晴れて臨時株主総会の招集請求が認められた場合、どのように案件が発展し、それに伴う法的論点は何だろうか。思いつくままに法的論点を挙げると、以下のとおりになる。

①各種会社資料の閲覧謄写請求

②臨時株主総会の招集決定

③総会検査役の選任

④委任状争奪戦

⑤株主総会運営

⑥株主総会決議の取り消し等の訴え

①各種会社資料の閲覧謄写請求

まずは、株主側から株主名簿閲覧謄写請求、議事録の閲覧謄写請求及び/又は会計帳簿の閲覧謄写請求を含む、会社資料の閲覧謄写請求がなされるであろう。法令上、このような閲覧謄写請求が認められない場合は規定されており、ギリギリの案件では、ここも大きな法的論点になる。しかし、開示資料によると、3Dと会社側は緊密に連絡をとっているようであり、また、今回の臨時株主総会の招集請求の目的は社外取締役選任を目的としているので、株主名簿閲覧謄写請求を除き、3D側の確認が必要な資料は少なそうだ。したがって、本件ではこの点は大きな争点にはならないで終わりそうだ。

②臨時株主総会の招集決定

株主総会前の論点の一つとして臨時株主総会の招集決定について挙げたい。上述のとおり株主は臨時株主総会の招集請求をすることができるが、これはあくまで請求であり、この請求により自動的に臨時株主総会が開催されるわけではない。この請求を受け、取締役会が臨時株主総会の開催を決定するか、取締役会が開催を決定しない場合、株主が裁判所の許可を得て株主総会の開催する必要がある。

法的にはここは少し面白い論点で、実務的には株主総会の開催請求を受けた会社は、必ず自ら株主総会の開催を決定をする。その理由は、株主が裁判所の許可を得て株主総会を開催してしまうと、株主側が株主総会の議長を選任することができなど、株主総会運営のイニシアチブを株主側に握られてしまうからだ。これを避けるため、会社側は自ら株主総会の開催を決定するのだ。

更に実務的な話をすると、会社側としては臨時株主総会開催までの時間を確保するため、おいそれと臨時株主総会の開催を決定をしない。通常は、株主は一定期間を経過すると臨時株主総会開催に関する許可を裁判所に申し立てるのであるが、それの申し立てを受けて会社側は臨時株主総会開催を決定するのである。

タイミングはどこになるか分からないものの、今回も富士ソフトの取締役会は臨時株主総会の開催を決定するであろう。

③総会検査役の選任

こうして会社側で臨時株主総会の開催が決定されると、会社側が株主総会の運営のイニシアチブを握ることになる。株主側としては、不正な議事運営をされたらたまったものではないので総会検査役を選任を裁判所に申し立てることになる。

総会検査役の役割はあくまで株主総会の運営に関する記録をとるという点にあり、不正を発見し、その不正を正すという役割までは担っていない。法律の建付けとしては、仮に不正があった場合は検査役の記録に残っているので、その記録を使い、裁判所で株主総会決議の取消し等を争うということになっている。

しかし、実務的には検査役が選任されると、総会の運営方法について、検査役、会社、株主の三者で事前に協議されることになる。もちろん株主総会の運営権は会社が握っており、最終的には会社側が判断するが、上記の三者間協議により、一定程度株主の意見が反映され、双方が納得するような総会運営方法が形作られていく。したがって、検査役には株主総会運営を公正なものとする役割は担っていないが、結果的には、双方が納得する「公正」な総会運営がなされることが多い。

④委任状争奪戦

委任状争奪戦と聞くと、要するに選挙活動であるので法的論点は少ないように思われるが、実はここにも法的論点は複数存在するのだ。

まずは形式面だ。上場会社における委任状勧誘には、上場株式の議決権の代理行使の勧誘に関する内閣府令(「勧誘府令」)というたいそうな名前がついた法令が適用される。勧誘府令には委任状に定めるべき内容等が規定されており、委任状はこれに則って作成される必要がある。したがって、委任状作成者は勧誘府令に十分留意して作成する必要があるのだ。

委任状関連で一番重要な論点は、どのような委任状を有効・無効とするかだ。例えば、委任状に署名を依頼したのに無署名で返送された場合、会社側にも株主側にも委任状を送付した場合、本人確認書類に不備がある場合と、実際に株主から返送される委任状には様々なバリエーションがあり得る。このそれぞれの場合につき、どのような基準で有効・無効を判断するか事前に決めておく必要がある。この有効・無効の判断については法令上明確な定めがなく、総会検査役、会社、株主の三者間協議で判断基準を定めることになるのであるが、この点は票数に直結する論点であり、かつ、正解がない世界であるので、弁護士の腕の見せ所だ(大抵、大の大人がムキになって喧嘩する。チーン。。)。

⑤株主総会運営

株主総会運営は皆さんご存知のとおり論点はあまりに多岐にわたるため、票数に関係する2点だけ触れることにする。

まずは当日の本人確認方法だ。この本人確認方法も正解が基本的にはない世界であり、総会検査役、会社、株主の三者間協議で判断基準を定めることになる。しかし、本人確認方法で大きく揉めることは少なく、基本的には株式懇話会が公表している株主本人確認指針に則ったものとなることが多いように思う。

もう一つ、そして最も重要なのは票数のカウント方法だ。これは、委任状の有効性に関連する論点と同じくらい重要な論点だ。例えば、選任に賛成の取締役候補だけ〇を付けてくださいとの指示にもかかわらず、×や△をつけている場合、白紙の場合、委任状とは異なる投票をした場合と、委任状の場合と同様、実際の投票に使われる投票用紙には様々なバリエーションがあり得るのだ。このカウント方法も総会検査役、会社、株主の三者間協議で判断基準を定めるため、弁護士の腕が試されるところであろう。

⑥株主総会決議の取消し等の訴え

やっと株主総会が終わったとしても、主に株主側から、株主総会決議の取消し等の訴えがなされる可能性がある。すなわち、株主総会運営方法について、三者間協議で合意ができない場合がある。そのような場合、株主総会の運営権限は会社が握っているため、会社が公正と考える株主総会運営をすることになるが、これに対して株主が異議を申し立てるという構図だ。また、別の例としては、株主側が票読みで勝っていたのに負けた場合、株主が不正を疑い、株主総会が不公正であるとして株主総会決議の取消し等の訴えを株主が提起することになる。

最終的にはこの訴訟で決着が着くことになる。

最近の事例では、関西スーパーの事例がこれに該当するだろう。関西スーパーの事例は法律家としては血沸き肉躍る(?)論点てんこ盛りな案件なので、いつかきちんと検討したい。

終わりに

3Dの臨時株主総会の招集請求をきっかけに、関連する法的論点を思いつくままに書いてみた。このエントリーでもわかると思うが、単純な株主アクティビズムでも法的論点は多岐にわたり、これをおろそかにすることはできない。

しかし、実務的な感覚すると、法的論点は法的論点であり、これで何かが決まるわけではない。株主総会の結論に最も左右するのは、当然ながら票数だ。票数で負けているにも関わらず、法的論点で勝って、結論が逆転することは実務的にはまずないであろう。したがって、株主アクティビズムは法的論点を粛々とつぶしていくことも重要だが、やはり最も重要なのは有体にいってしまえば多数派工作であろう。通常時における株主との対話、有事における機関投資家への挨拶周りはもちろんのこと、議決権行使助言会社に対するアプローチも欠かしてはならない。当然であるが、塵も積もれば山となるので、個人投資家へのアプローチ方法(これに動員される弁護士は灰になる)も考える必要がある。

実は3Dは2022年3月11日に自らが開催請求をした臨時株主総会で、社外取締役の追加選任を試み、40%の賛成しか得られず負けている。今回改めて臨時株主総会を請求したのは、票読みが変わったからなのか、その他の理由があるからなのか、詳細は不明であるが、今後の展開に注目したい。

なお、株主がよりドラスティックに行動し、会社の支配権を取り来た場合については、買収防衛の論点になる。買収防衛についてはこちらのエントリーで少し書いているので、興味のある方は参考にされたい(見てください!!!)。

 

businesslaw-diary.com

 

オイシックスによるシダックスに対する異例な公開買付け - 創業家一族とユニゾン/シダックスの対立?

はじめに

オイシックスがシダックスに対してディスカウントTOBを開始した。通常、ディスカウントTOBは特定の第三者から株式を取得することを目的として実施されるものである。そのため、公開買付けを開始する前に、公開買付者は特定の第三者との間で、公開買付けを開始したら当該公開買付けに応募することを約束する応募契約を締結する。しかし、この案件ではこの応募契約を締結せずに実施されたものであり、かつ、応募契約の締結を拒否したのが日本の有名PEファンドであることから、注目を集めている。法律的にも興味深いところがあったので、なるべく簡単にこの件について書いてみたい。なお、公開買付届出書についてはこちら参考にされたい。

https://tyn-imarket.com/pdf/2022/8/29/140120220829525435 

背景

この案件の発端は、2019年に遡る。2019年5月、日本の一流PEファンドであるユニゾンファンドはシダックスに出資し、業務提携を開始した。

https://www.shidax.co.jp/cms/wp-content/uploads/2019/09/1217.pdf 

今回、オイシックスが取得することを企図している株式は、上記の出資によりユニゾンが取得したシダックスの株式(優先株式)である。これに関し、オイシックス及びシダックスは、2022年6月29日、シダックスがユニゾンが保有する株式を取得すること、その背景としてユニゾン及び創業家株式の間で締結されている株主間契約に基づき創業家がユニゾンに対してシダックスに対してユニゾンが保有する株式を売却するよう請求したこと、及び、オイシックスによる当該株式の具体的な取得方法については検討中であることを公表した。

https://www.shidax.co.jp/cms/wp-content/uploads/2022/06/%E5%BD%93%E7%A4%BE%E3%81%AEB%E7%A8%AE%E5%84%AA%E5%85%88%E6%A0%AA%E5%BC%8F%E5%8F%88%E3%81%AF%E6%99%AE%E9%80%9A%E6%A0%AA%E5%BC%8F%E3%81%AE%E5%8F%96%E5%BE%97%E3%81%AB%E9%96%A2%E3%81%99%E3%82%8B%E9%80%A3%E7%B5%A1%E3%81%AE%E5%8F%97%E9%A0%98%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6.pdf

https://www.oisixradaichi.co.jp/wp-content/uploads/2022/06/67e81e88ad6affcbfaa0d675434198a7-1.pdf

今般、この具体的な方法として、公開買付けが選択され、オイシックスが公開買付けを開始した。このことはシダックスのプレスリリースからも明らかである。

https://www.shidax.co.jp/cms/wp-content/uploads/2022/08/%E3%82%AA%E3%82%A4%E3%82%B7%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%83%A9%E3%83%BB%E5%A4%A7%E5%9C%B0%E6%A0%AA%E5%BC%8F%E4%BC%9A%E7%A4%BE%E3%81%AB%E3%82%88%E3%82%8B%E5%BD%93%E7%A4%BE%E6%A0%AA%E5%BC%8F%E3%81%AE%E5%85%AC%E9%96%8B%E8%B2%B7%E4%BB%98%E3%81%91%E3%81%AB%E9%96%A2%E3%81%99%E3%82%8B%E3%81%8A%E7%9F%A5%E3%82%89%E3%81%9B.pdf

したがって、ここまでは巡航運転だったが、上述のとおり、この公開買付けにおいては応募契約が締結されていなかったのだ。

ユニゾンが応募契約を締結しなかった理由

公開買付届出書によると、ユニゾンが応募契約を締結しなかった理由は以下のとおり説明されている。

ユニゾンファンドとしては、(i)本株主間契約上の本売却請求権が、「適用法令上許容される限 度において、かつ適用法令に従って」行使することができるとされているところ、対象者が公開買付者以外の複数のアライアンス候補先とフードサービス事業における協業について検討を行っており、かかる検討の事実は対象者に関する未公表の重要事実(法第 166 条第2 項)に該当する可能性が高いこと、公開買付者も創業家(志太勤一氏及び志太勤氏)を通じ て当該検討の事実を認識していることから、公開買付者は、対象者に関する未公表の重要事 実(法第 166 条第2項)を認識しており、公開買付者による対象者株式の取得は法 166 条の インサイダー取引規制に違反する可能性が高いため、本売却請求権の行使は「適用法令上許 容される限度において、かつ適用法令に従って」に該当しないことを理由に、ユニゾンファ ンドは本株主間契約上の売却義務を負わず、本公開買付けへの応募義務も負わないと考えて いる旨の見解が示されております。また、(ii)ユニゾンファンドとしては、対象者が賛同し ないような公開買付けへの応募はしかねる旨の考え方が示されており、対象者による賛同意見が表明されない限り、本公開買付けへの応募はしないことを想定しているようです。

少し話は遡るが、2022年6月にオイシックスがユニゾンが保有する株式を取得する背景として、創業家とユニゾンの間の株主間契約(「本株主間契約」)に基づき創業家がユニゾンに対して株式を売却するように請求したと説明した。ユニゾンが応募契約を締結しなかった理由は、この売却請求に関連する。すなわち、開示資料によると、本株主間契約によると、かかる売却請求権は「適用法令上許容される限度において」のみ行使できるところ、今回の公開買付けはインサイダー取引に該当する可能性があり、「適用法令上許容される限度」を超えるため、売却請求権の行使は認められない、というのが第一の主張である。

第二の主張は、オイシックスが賛同しない公開買付けには応募できない、としか記載されていない。この点については、対象者が賛同しない公開買付けに応募するケースも当然あるのであるため(例えば、敵対的買収における公開買付けに応募するが挙げられる)、もう少し説明が欲しかったところだ。だが、開示資料からもう少し深読みすると面白いことが分かってくる。オイシックスは創業家と公開買付け後におけるオイシックスとシダックスとの間の業務提携の検討に関する協力等に ついて定めた覚書を締結しているようである。創業家はあくまで創業家であり、シダックスではない。通常であれば、このような覚書は「シダックス」とオイシックスの間で締結される。それが創業家と締結されたとなると、シダックスの内部で創業家とそれ以外の執行が対立していると考えられるだろう。このうち、創業家はオイシックスと、執行はユニゾン側についているのだろうと推測ができる。

これを前提に取締役の構成を見てみると、全6名のうち創業家が2名、ユニゾン出身者が1名となっている。今回の公開買付けに賛否については、創業家・ユニゾン出身者は関係しているので、保守的に残りの3名で決定することとなる可能性がある。この3名は創業家側にはついていないと思われるため、公開買付けに反対する可能性もある。事実、シダックスは今日現在まで公開買付けに対して、検討する旨の公表をしているが、明確な意見を表明していない。

2022 年6月 29 日公表の「当社の B 種優先株式又は普通株式の取得に関する連絡の受領 について」に記載の通り、当社のフードサービス事業の成長戦略として複数のアライアンス候補先との 協業の検討を進めていく上で、本公開買付けが、今後の協業先の検討に与える影響を評価する必要があ り、また、少数株主の利益拡大に資するかどうかについて慎重な判断が求められる中、本日現在、当社 取締役会の本公開買付けへの賛否の表明および株主の皆様への応募の推奨・非推奨の結論が出ていない 状況です。

参考:https://www.shidax.co.jp/cms/wp-content/uploads/2022/08/%E3%82%AA%E3%82%A4%E3%82%B7%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%83%A9%E3%83%BB%E5%A4%A7%E5%9C%B0%E6%A0%AA%E5%BC%8F%E4%BC%9A%E7%A4%BE%E3%81%AB%E3%82%88%E3%82%8B%E5%BD%93%E7%A4%BE%E6%A0%AA%E5%BC%8F%E3%81%AE%E5%85%AC%E9%96%8B%E8%B2%B7%E4%BB%98%E3%81%91%E3%81%AB%E9%96%A2%E3%81%99%E3%82%8B%E3%81%8A%E7%9F%A5%E3%82%89%E3%81%9B.pdf

 

オイシックスの反論

これに対するオイシックスの反論もみておこう。

公開買付者としては、(i)インサイダー取引規制違反の点に関して、対象者における公開買付 者以外の複数のアライアンス候補先とのフードサービス事業の協業に関しては、当該協業の 検討に関する事実の公開買付者による認識時期及びその経緯については対象者との間で認 識の相違があるものの(注7)、いずれにしても本日現在においては対象者の取締役会におい て具体的な他社提案等を検討している事実はなく(注8)、対象者に関する未公表の重要事実 (法第 166 条第2項)には該当しない旨を、創業家(志太勤一氏及び志太勤氏)から伺って おり、その他対象者に関する未公表の重要事実に該当する事実は認識していないことから、 本公開買付けに関する公開買付者のリーガルアドバイザーである三浦法律事務所からの助 言も踏まえ、公開買付者による本公開買付けを通じた対象者株式の取得がインサイダー取引 規制に反する事情はないと考えております。また、(ii)対象者による公開買付けに対する賛 同表明を前提とする点に関して、創業家によると、創業家は、ユニゾンファンドが、創業家 による公開買付者を創業家指定譲受人に指定する内容の本売却請求権の行使の結果、ユニゾ ン4号組合が所有する対象者株式 12,230,079 株(所有割合:22.34%)の全て、及び、Unison IV ファンドが所有する対象者株式 2,562,880 株(所有割合:4.68%)の全てを公開買付者に 対し売却する契約上の義務を負っていると考えているとのことであり、対象者による本公開 買付けに対する賛同表明が売却義務の前提とはなっていないとのことです。

ユニゾンの「インサイダー取引」に該当する可能性があるとの主張については、インサイダー取引には該当する可能性はないと反論している。ユニゾンの賛同意見表明の主張については、賛同意見表明は売却義務の前提になっていない、すなわち、ユニゾンの応募契約を締結しない理由付けは理由付けにそもそもなっていない、と反論している。

どちらに理があるのか

まず、インサイダー取引の点についてである。これは、ある買い手候補によるシダックスに対するそのフードサービス事業の買収の提案が、インサイダー情報にあたるものではないか、というのが論点になっているようである。このような会社買収の事案は会社に与える影響が大きいため、インサイダー情報に該当する可能性があるところ、これについて、オイシックスは、フードサービス事業に売却に関するシダックスの機関決定はないし、すでにこの点については検討を止めるとの機関決定がなされていると主張している。1点目の主張については、機関決定の有無はインサイダー情報の該当性には直接に関係しないので、於いておく。2点目については興味深いので以下のような主張をしている。

2022 年8月 19 日、対象者の取締役全員及び監査役全員が参加の取締役・監査役宛て報告会が開催されたとのことであり、 対象者の代表取締役会長兼社長である志太勤一氏によれば、当該報告会において、 志太勤一氏より、公開買付者以外の複数のアライアンス候補先とのフードサービ ス事業の協業に関しては、これらのアライアンス候補先による提案が撤回され、 又は真摯な提案ではないことが判明したため、現時点では各社の提案はインサイ ダー情報ではないと整理できると考えていることや検討に値しないと判断して いる旨報告したとのことであり、その旨当該報告会の議事録にも記載されている とのことです。

どうやら、このフードサービス事業の売却に関しては、創業家の志太勤一氏が取締役会に報告せず進めていたらしいが、上記の文からは、その実務担当者が検討に値しないと取締役会で報告しているようだ。ユニゾン・執行側が主張するようにこの事実の一つをもってインサイダー情報該当性を完全に否定することは難しい。しかし、一歩引いて考えると、取締役会に上程されていない買収事案を実務担当者が中止判断した事案ということができ、そのような場合、実務家の感覚としては、インサイダー情報に該当しないと考えるのが多数なのではないか。したがって、ユニゾン・執行側のインサイダー取引に該当する可能性があるという主張は強いものとはいえない。

そうなると、ユニゾン・執行側は本株主間契約に基づく売却請求を断る理由がなくなってしまう。その場合、売却請求権の条件となっていないシダックスの賛同意見がないからといって、売却請求権を否定することは法的には難しいだろう。すなわち、ユニゾンの賛同意見表明がでないと売却はできないという主張も、この場合は、強いものとはいえない。

今後の見通し

仮にユニゾン・執行側が徹底抗戦に出た場合、創業家は法廷闘争に持ち込むだろう。タイミングは読みがたいが、例えば、9月12日に執行側が反対意見表明を出した後に契約の履行を求めて訴訟を提起することや(なお、このような保全の訴えは法的側面からどのように執行するのかというとても興味深い問題を含んでいるが、今日の議論とは少し外れるので、この点は別のエントリーで書きたい。)、公開買付期間終了後、応募がなかったことを理由に訴訟を提起することが考えられる。この訴訟において、開示資料を正とするのであれば、ユニゾン・執行側に理はあまりないように思われ、訴訟の見通しは決していいとは言えない。

では、このような状況にも関わらず、ユニゾン・執行側は徹底抗戦にうってでるだろうか。執行側の意図は図りかねるところがあるが、ユニゾンについてはそこまでの行動はしないのではないか。ユニゾンからすると、このような一か八かの訴訟を誘発するような行動は、ファンドの資金提供者との関係から難しいと思われる。訴訟で勝った場合であれば問題ないが、負けた場合投資効率が落ちることはもちろんのこと、レピュテーションの問題から次回のファンドレイズが難しくなるというファンドビジネスにおいてもっとも重要な部分に傷がつく可能性もある。また、ユニゾンは対象となっている株式について40億円で取得しているところ、公開買付けに応募した場合は約80億円(8,002,990,819円)で売却することになる。この取得価格と売却価格の差だけでも年利26%程度で回したことになり、これに配当を加えれば、ファンドとして合格点な投資であろう。

そう考えると、ユニゾンとしては、上記のようなリスクを冒してまで強硬姿勢を貫くことは考え難い。ユニゾンとしては意に沿わないイグジットのタイミングと売却額だろうが、公開買付けに応募しないという選択肢はないのではないか。

本件は、9月12日までになされるシダックスの意見表明を起点として今後更に展開していくと考えられる。シダックスの意見表明は要注目であろう。

米国弁護士の難易度 - 司法試験の難易度から就活の難易度まで

はじめに

最近、ある学生から、日本の弁護士ではなく、直接アメリカの弁護士になることについての相談を受けた。既に議論が尽くされているところではあると思うが、アメリカ(のいずれかの州)の弁護士になることについて、私の考えを書きたいと思う。なお、このエントリーの信頼性のために付言すると、一応、こんな私でもカリフォルニア州司法試験に数年前(遠い目)に合格している。

司法試験試験の難易度

全体感

小室圭さんのおかけで様々な議論がされているが、まずは司法試験難易度について・ツイッターを見ると、合格率が高いから簡単なはずだ、とか、逆に米国司法試験の合格者は日本人にとっては難しい(受験者の母数が東大卒のエリート弁護士ばかりだから日本人の合格率が高いだけで、本当は難しい)等々正反対の意見が散見される。どちらが正しいのだろうか?

この議論に結論を出すのはなかなかに難しいが、旧司法試験の択一合格レベル又は有名ロースクール既習合格程度の法律知識し、TOEFL100点程度の英語がある人であれば、合格の可能性は十分ある、というのが実情ではないだろうか。私自身のことについていえば、地方国立大学(一応旧帝大)を卒業し、ロースクールも東京の私立を修了しており、予備試験合格や学部又はロースクールが東大・京大といった華麗な学歴ではない。また、TOEFLも105点に届かいない程度であり、留学する人の中では至って普通な英語力だ。しかし、それでもll.m卒業後、2か月強の勉強で合格することができた。

分類別の難易度

米国の司法試験の難易度を的確に説明するのを難しくしているのは、米国の司法試験に合格するには、リーガルの能力と英語能力のいずれも必要となるが、この能力が「受験勉強開始の時点において」人によってバラつきがあるからだろう。日本における多くの試験は、専門知識の有無を問うものであり、基本的にそのような専門知識はないことを前提に難易度が図られている。スタート地点がみな同じでゴール地点でどれだけ遠いかが難易度の基準になっているというとイメージができるだろうか。しかし、米国の司法試験については、スタート地点が各自によって違うので、ゴール地点までの距離が人によって異なってくるのだ。

これを前提に、法律レベルと英語レベルの星取り表を作ると、以下のような整理となる。

 

法律

英語

該当例

1.

四大弁護士、外資系法律事務所の弁護士、日常業務で英語を使う法務部員

2.

×

いわゆる街弁

3.

×

日本で法学教育を受けていないが、日常業務で英語を使う方

4.

×

×

日本で法学教育を受けておらず、かつ、日常的に英語を使わない方

 

上記の表では、難易度順に並べており、1.が一番難易度が低く、4.が一番難易度が高い。また、少し補足しておくと、法律の「〇」は昔であれば旧司法司法試験の択一合格レベル(残念ながらおっさんは予備試験の択一合格レベルがどの程度の難易度が肌感覚がないので比較できません)、又は、有名ロースクール既習合格レベルのイメージで、英語の「〇」はTOEFL100点以上のイメージだ。

まず、法律のレベルについて。米国の司法試験も法律の試験だ。そのため、日本の司法試験の勉強もかなり役に立つ。米国のルールを覚えるときに、日本の法律との比較で記憶し、理解することができるからだ。例えば、私の例でいうと、日本法でなじみのないcommunity propertyという科目はかなり苦労したが、Contractsなどの日本法との比較で考えられる法律はすっと記憶し、理解することができた。また、法律文書の書き方に習熟しているのも強い。日本で法教育を受けている人であれば、各要件ごとにあてはめ、各要件の個別論点について、問題提起⇒規範定立⇒あてはめ⇒結論という一連の論証手順は寝ていてもできるはずだ。しかし、法教育を受けていない人にとって、このような論証手順をマスターするのでさえ四苦八苦するはずだ。日本で法教育を受けている人の答案は、ボロボロの英語でもなんとか法律文書の「体」を保つことができ、採点者も採点しやすい(点数を与えやすい)が、法教育を受けていない人の答案は、英語もボロボロだし、法律文書の「体」もなしていないので、どうしても点数が低くなってしまうのだ。

次に英語のレベルについて。弁護士の仕事は大量の文書を正確に早く読み込み、それを文書に落とし込むことが要求されるので(タイポだらけのこのブログから明らかなように、私はいずれも苦手(ドーン))、当然、司法試験でも大量の文書を読まされ、かつ、長い文書を書くことが要求される。したがって、司法試験の問題を解くには相当程度の英語力が必要になる。とはいっても、英語がペラペラ、ネイティブみたいに話せる、といったレベルまでは当然必要はない。元来日本人は話す聞くは苦手であるが、英語の読み書きは得意としているところであり、留学できる程度の英語力があれば問題なく、ll.mの期末試験を突破できる程度の英語力があれば十分と考えてもいいだろう。逆にいうと、TOEFLの点数との関係で留学ができていない方、日常的に英語を使っていない方にとっては米国司法試験の難易度はグッと上がることになる。

法律のレベルと英語のレベル、どちからが試験の結果に影響するかと言われれば、英語のレベルが一定水準(TOEFL100点程度)を超えれば、法律のレベルだろう。どんなに英語ができる人でも、法律を分かっていなければ合格できない。この試験にネイティブが何人も落ちるのはそれが理由だ。自分自身の経験を踏まえても、日本の法律の知識、法律文書の書き方を知っていたことはかなりプラスになったと感じている。

このことから、法律のレベルは十分だが英語のレベルが十分ではない人(2.)と、英語のレベルが十分だが法律のレベルが十分ではない人(3.)を比べた場合、3.の人の方が司法試験を難しいと感じるだろう。

なお、話題の小室圭さんは3.の位置付けられる人であり、やはりこのような人にとってはかなりのレベルの試験であることが分かる。

色々書いていたが、法律レベルも英語レベルも十分な方は世間では中々にレアであり(1000人に1人いるだろうか?いるか?)、All in allで考えると、一般的には難易度が高い試験と言えるだろう。もっとも、私に質問をするような学生は、法律の勉強をしており、英語のやる気もある方なので(1.の分類に入る又は今後入る可能性が高い)、当然そのような学生にしてみればそこまで難しい試験ではないということになりそうだ。

就職の難易度について

全体感

さて、晴れて合格したとしても、次にハードルになるのが就職の難易度だ。はっきり言ってこれは日本人(特に純ジャパ)にとってはかなり難易度が高いという印象だ。

ll.m生はお客様扱いされているので、ll.m生を戦力として見ている米国法律事務所は少ない(実質的には0に近い)と考えてよい。したがって、米国の法律事務所の米国オフィスで働くというオプションはかなりハードルが高い。私の尊敬する優秀な四大の友人でさえ、一応トライしていたが、撃沈していた。自慢ではないが、当然私も見事に撃沈している。

私の就活体験記

ここで少し私の個人的な体験をll.m生の就活例として書いてみたい。ロースクールでは複数回ll.m生を対象とした就職フェアのようなものを開催している。その就職フェアに参加する法律事務所又は国際機関は、希望する応募者の資質について明確にしている。例えば、M&Aバックグラウンド、●国籍保有者、●法資格保有者といった具合だ。この中でほんの少数であるが、日本人又は日本法資格保有者を対象としているところもある。私のときは150件中5件か6件あったかなかったかくらいだったと思うが、その多くが外資系法律事務所の東京オフィスであるが、国際機関やグローバルローファームの外国オフィスもほんの少しだけ募集していたと記憶している。

もちろん私は全て応募して全て書類で落ちた笑

四大の友人も同じように応募しており、いくつかの事務所については面接まで進んでいた(その中の一つにはニューヨークの超一流法律事務所もあったと思う)。しかし、(私から見たらとてつもなく優秀な彼でさえ)英語面接では十分に力を発揮できなかったようで、桜は咲かなかったようだ。

私はカリフォルニア州司法試験合格後もこの資格を活かした仕事をエージェント経由で探したが、現実はそう甘くなかった。まず米国で働くためにはビザが必要になるが、そのビザをわざわざ日本人のために用意する法律事務所はほとんどないようである。また、日本企業の米国オフィスの法務部も選択肢に入るのではないかと思ったが、そのような企業はアメリカでの実務経験がある人を求めているので、アメリカでの実務経験がないままそのような企業に就職するのは一般的にはかなりハードルが高いようだ。エージェントが言うにはもちろんご縁次第で、英語がネイティブレベルにできるのであれば、日本企業の海外オフィスに採用されることもあるようだ。

可能性があるとしたら、外資系法律事務所の東京オフィスだ。東京オフィスでも米国法資格者の求人を出すことがある。例えば、Youtubeを見て知ったが、Shearman & Sterlingの勝山先生は、日本の法曹資格は有していないが、コロンビア大学のll.m卒業後、ニューヨーク州の弁護士として同事務所の東京オフィスで働き始めたようだ。また、それ以外にも、ごく少数であるが、ll.m卒業後、日本の外資系法律事務所の東京オフィスで働き始めた人も個人的に知っている。なお、私が勝山先生を知ったYoutubeはこちら。

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ご覧のとおり、Super格好いいSuperウーマンだ(気軽に勝山先生の例を出したが、改めて見返すと、このレベルを求めるのは中々酷なように思えてきた苦笑)。なお、このYoutubeのもう一人のゲストであるひなこ先生もロースクールのときから大量のレジュメを米国の法律事務所に送り、その後米国のPublic Sectorで働ているらしい。日名子先生もエネルギッシュですごい。。

なお、日本の留学者は年齢層が高いので年齢面が気になる方もいると思う。アメリカでは年齢は見ないので名目上そこはマイナスには働かないはずである。しかし、実態はどうなっているかは不明であり、採用する法律事務所としては、やはり兵隊として働いてくれる若手の方が採用しやすいのではないかと個人的には訝しく思っている。

なお、J.D.となると話は違うだろう。私の知り合いでも、J.D.卒業後、米国の有名法律事務所の米国オフィスで働いている人を数人知っている。しかし、いずれもそれなりにシニアな方であり、当時は米国法律事務所もJapan Deskを持っており、一定の日本人を必要としていたらしく、その波に乗り、就職したらしい。彼らが就職した頃と今の日本の経済におけるプレゼンスは異なっているため、今日現在、就職しようとしたら、ロースクールで成績優秀賞を取得する等のプラスアルファが必要になるかもしれない。

就職後の生活について

最後にお給料事情について。ご案内のとおり、米国トップファームの事務所の給料は公開されており、その額は流石の一言。1年目から額面なんと$215,000!日本円にして、27,950,000円。。これは夢がある。。しかし、友人に聞いてみると、このくらい稼ぐと税金も高いし、アメリカでは家賃を含む物価も高い。国民皆保険制度ではないので、高い健康保険に入る必要があるし、実際には保険は支払わないことは多々あるので医療費の積み立ては不可欠。それだけではなく、年金も個人任せなので将来のための積み立ても必要、といった感じで、そこまで贅沢できる訳ではなさそうだ。あくまで個人的な見立てであるが、日本でいうと1000万円程度の収入の人と同じような生活レベルのような気がする。これは私はごく限られた知見なので私の見立ては信用ならないが、額面ほどリッチな感じではないかもしれない、というのは覚えておくといいかもしれない。

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まとめ

以上をまとめると、アメリカで弁護士になるためには、司法試験と就活の2つのハードルがあるが、一つ目のハードルは法学徒であれば超えられそうだが、2つめのハードルはちょっと中々にハードルが高そう。J.D.ルートで行くと2つめのハードルも超えられそうだが、実際に働き始めてもそこまでウハウハという感じではない。むしろ、J.D.で勉強する3年間という時間、また1年1000万円に迫る勢いの学費を考えると、そこまでコスパのいいルートではないように思えてくる。それであれば、頑張って予備試験に受かって、四大や外資系法律事務所に就職する方がコスパがいいキャリアのように思えてくる。

ということで、私の学生へのアドバイスは予備試験に頑張って合格して日本のエリート法律事務所に行く方がコスパがよさそう、しかし、海外に強い憧れがあるのであれば膨大な借金覚悟でJ.D.に挑戦するのでもいいのではないか、というところだろうか。

しかし、若いというのは本当に素晴らしいことだ。彼・彼女らの未来は無限に広がっている。私の未来は悲しいことにかなり限定されてしまっている感がでているが、もうひと踏ん張り、ふた踏ん張りしてキャリアをどうにか切り開いていきたい。